第54話 ダブルソフィアと母さんの気持ち
「黄金の林檎だと? 何寝ぼけたこと言ってやがる。こっちはなお前みたいに暇じゃねえんだよ!」
「随分と荒れてんな。なんかあったか?」
ギルマスが呑気な声で話しているのは、ギルド本部長のセオドラ・ミルタウン。
「ローデリアが騒いでんだろうが。お陰で本部にも騎士団が常駐して、女の冒険者を片っ端から捕まえてやがる」
「ふーん」
「通常の業務に支障をきたすわ、冒険者からのクレームが山のように降ってくるわで蜂の巣をつついたような騒ぎだよ」
ギルド本部はアスカリオル帝国にある。
アスカリオル帝国は強力な軍事国家で、近隣諸国を制圧・属国化し、領土を着々と広げている。
アスカリオル帝国は十年に一度開催される闘技大会で帝王を決定する完全実力主義の国。
現在の帝王であるラシッド・エルミストは三年前に大会で優勝した、帝国の高位貴族令息であると同時に元Aランク冒険者。
「逃げてくれば? 黄金の林檎を確認に行くといやあ文句は出ねえだろ?」
「ルカちゃん、お前なぁ。ガセだったらボコボコにすんぞ」
「ルカ言うな! もしほんとだったら、俺がお前をボコボコにすっからな。
時間がねぇから本部の鑑定士も連れて来いよ」
「げっ、アイツと一緒に行動するとか俺を殺す気か?」
「安心しろ、こっちにも似たような奴がいる。気が合うかもしんねえ」
ギルマスが薄ら寒い笑い声を上げた。
「・・それはそれで怖いな」
ギルマスが通信を終了すると、ソフィアが真顔で聞いてきた。
「で? どうなりました、ルカちゃん?」
「てめえ、ルカ言うなって聞いてただろうが! こっちが動けねえならあっちを動かしゃいいんだよ」
「確かに、本部役員の肩書があれば堂々と検問を突破できますね」
ソフィアが「うんうん」と頷いている。
「そう言うわけだ、ちびすけに暫くじっとしてろって言っといてくれ。
奴の事だ、多分二・三日ですっ飛んでくる」
「ギルマス、誰に言ってます?」
「隠れて話を聞いてる犬っころにな」
『伝えておこう、ルカ・・ちゃん』
ギルマスが立ち上がって怒鳴った。
「くそお、神獣だからって容赦しねえからな! 出て来やがれ」
「・・ギルマス、神獣相手じゃ絶対に勝てませんから」
仮面をつけたソフィアはとても冷静だった。
夕方が近くなりトレントの森には涼しい風が吹いていた。
昨日からの快進撃で疲れ果てていたミリアは、カノン達の元気な声を聞きながらウトウトとお夕寝の最中。
リンドはそんなミリアの寝顔を見つめながら、
(カノンの父親に会った時、母さんもこんな気持ちだったのかな?)
そう気付いたリンドの頬は少しばかり赤らんでいた。
『ミリア』
ヴァンの呼び声にミリアが飛び起きた。
「なっ、何かあった?」
『ギルマスからの伝言がある。この森でニ・三日大人しくしてろ』
「大人しく? 何かあったの?」
『向こうにはソフィアもいる。心配はいらん』
「そうだね、ソフィアさんなら・・」
『本部をこちらに呼び寄せるそうだ。鑑定士も連れてくると言っておった』
「そうか、ならSランク登録上手くいくかも」
問題が解決し元気を取り戻したミリアは、夕食にバーベキューをする事にした。
バーベキューを初めて見るリンドとカノンは興味津々で準備を手伝ってくれた。
「ミイ、焼き具合はこのくらいかな?」
「うん、いいと思う。はいカノンちゃん、熱いから気をつけてね」
「ディーにはもっとちっちゃく切ってあげるね」
リンドが焼き物を担当してミリアがそれを銘々の皿に取り分けていく。
もぐもぐと美味しそうにお肉を頬張っていたカノンがリンドとミリアを交互に見ている。
「お父さんとお母さんみたい」
「「へっ?」」
「カノンは見た事ないけど、お父さんとお母さんがいたらそんな感じなのかな? って思ったの」
「なっ、ばっばかな事言ってないでちゃんと噛んで食べるんだ」
リンドが顔を赤くして吃った。
「にいちゃん、顔が真っ赤だよ?」
「火・・火のそばにいるから」
「ふーん、ミイちゃんのお父さんとお母さんってどんな人?」
「二歳の時に死んじゃったから覚えてないの。でもこの間少し話を聞いたんだけど、二人はすごく仲が良くて子供想いで素敵な人だったって。
ウォーカーは三歳年上だから少しは覚えてるかも」
「ミイちゃんにもにいちゃんがいるの?」
「そうよ、リンドに似てるかも」
「「えっ?」」
リンドとカノンの声がシンクロした。
「ウォーカーはすっごく私に甘いから、リンドもカノンのこととても大切にしてるでしょう?」
「会ってみたーい」
(ミイの兄さん・・)
「もう少ししたら会えるかも。私が追いつくのをずっと待ってくれてるから」
カノンに問われるままミリアはウォーカーのことやディエチミーラの事を話した。
「その人はミイを溺愛してる・・Sランクって・・それってすごい事?」
リンドの顔が次第に青褪めてきた。
『この世界で最強の冒険者という事だ』
「にいちゃん、ウォーカーさんかっこいいね」
「うっうん」
自分の気持ちに気づいた途端、大きな壁が立ち塞がったリンドだった。
「ミイもSランクになるんだよねー」
ディーがリンドに追い討ちをかけた。
(頑張る、これからだから。堂々と街を歩けるようになったら・・強くなって、そして)
わいわいと楽しかった食事が終わり、火を囲んでのんびりお茶を飲んでいた時ミリアがヴァンに話しかけた。
「ヴァン、ベヒーモスの事なんだけど」
『気になるか?』
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