第53話 ギルマスが・・可愛いって!

 騎士団長が呆然とした顔でミリアと仔犬を交互に見つめ、団員がミリアに向けて剣を抜いた。


 ギルマスは一瞬驚いた顔をしたがニヤリと笑い、


「飛び入りか?」





「Aランク冒険者のミリアです。

ギルマスにダンジョンの完全攻略のご報告に来ました。ラスボスはラードーン、これが討伐証明です」


 ミリアは足元に黄金の林檎を置いた。


「おっおう。

ご苦労、ラードーンはマジで林檎を落とすんだな」



 団長が慌てて立ち上がり、


「国家反逆罪で逃亡中のミリアだな!」


 団員が剣を向けたままジリジリとミリアに近づいてくる。



 団長と団員を完全に無視したまま、ミリアはギルマスに向けペコリと挨拶をして消えていった。



「きっ消えた・・ギルマス、どう言う事だ! 説明しろ」


「冒険者が依頼や討伐が完了した時、ギルドに報告に来るのは普通じゃねえか?」



「貴様、やはり逃亡者を匿っておったのか!」


「はあ? 今のがそう見えたんなら眼鏡作った方が良くないか?」



 ソファから「よっこいしょ」と立ち上がったギルマスは床の林檎を拾い上げ光にかざし、


「マジもんの黄金の林檎だ」


と呟いた。



(団長がいるって知ってただろうに報告に来るとは、律儀と言うか無謀と言うか。まあ、そう言うところも可愛いというか目が離せないというか・・)



「くそ、覚えてろ! もし貴様が逃亡者を匿っていたことが分かったら俺がこの手で処罰してやる」


 団長が団員を連れてドタドタと出ていった。


(ドア閉めてけよ、全くめんどくせえ)




 団長の「退け退け!」と言う怒鳴り声が聞こえなくなったと同時に、バタバタと階段を駆け上がってくる足音が聞こえて来た。


(げっ、めんどくせえのが上がって来やがった。はぁ、昼寝してえ)



「ギルマス!」







「ミリア、帰って来たのか!」


 トレントの森に転移すると木の棒を手に持ったケット・シーが走って来た。


「早かったな。もう諦めたのか?」


「ばーか、攻略したに決まってんじゃん。あたし達は最強のパーティーなんだからね」


「そうか、そうだな。うん、おめでとう」


「あっありがとう」



 素直に祝ってくれたケット・シーの態度を訝しんだディーは、


「アンタどうしたのよ、何でいつもみたいに偉そうにしないの?」


「トレントの森はいつも通りだったんだ。長閑で誰も来なくて・・」


「で?」


「ミリアは俺様が弱いから連れてかなかったんだろ。だけど、ここを守って欲しいって言って。

馬鹿にしたり邪魔者扱いしたりしなかった。

だから・・」



「ふーん、だったらアンタを仲間にしたげてもいいかもね。

でも今までみたいに偉そーにしたら直ぐに追い出すからね!」


 ケット・シーに向けてビシッと指を刺したディーはとても嬉しそうに笑っていた。




 リンドとカノンはミリア達が戻ってくるまで姿を隠す事にしたそうで、早速ディーが迎えに行った。


「ケット・シー、ありがとう。ここが今まで通りでホッとしたわ」


「なーんにも起こんなかった。カノンも遊びに来れないし、いつもよりもっと暇だった」


「それでもよ」



 ケット・シーは照れ臭そうに持っていた木の棒を振り回し、


「俺様もっと強くなる! 次はミリアを助けてやるからな」





「ミイちゃーん」


 カサカサと草の揺れる音がしてカノンの可愛い声が聞こえ、手を繋いだリンドとカノンが広場に走り込んできた。


「おかえり、ミイちゃん。もう終わったの?」


「うん、終わった。後もう少しでみんな自由になるよ」


「やったー、そしたら美味しいご飯食べに行きたい! 前に街ですっごくいい匂いがしてたの」



 みんなで車座になってお茶とお菓子でお祝いをした。

 ダンジョンの様子や戦った敵のことを話すとリンドは興味津々で。


「いつか僕もダンジョンに行ってみたいな」


「そん時はディー達が一緒に行ってあげるね。でも、イタチはなしで」



 バジリスクをイタチの臭腺でやっつけた話だとかケルベロスが甘党だとか、ミリアの作戦にみんなで呆れるやら笑い転げるやら。



「ボス戦でその余裕、ミイは僕が想像してた以上の大物だね」


「臆病なのよ、自信がないから何でもかんでも試したくなるの。

何でも試してみて上手くいったらラッキーって」



『臆病者は地獄の門番を餌付けしようとはせん』


「ケルベロスって可愛いの? ペットにできる?」


 カノンがとんでもないことを言い出した。


「「「ぶーっ! ゲホッゲホッ」」」



 みんな一斉にお茶やお菓子を吹き出した。





 カノンとケット・シーとディーが追いかけっこをはじめた。

 ヴァンは今日も丸くなり尻尾をゆらゆらと揺らしている。



「次はどうするの?」


「Sランクの申請を出すんだけど、ギルド本部が別の国にあるの。そこが一番の問題かな?」


「ヴァンやディーの転送魔法じゃダメなんだ?」


「不正入国者になるとほんとの犯罪者になっちゃうから。

申請には三名の推薦者と書類提出が必要なのよね」


「人間のルールは面倒だね」


「私もそう思う」



 はぁっと溜息をついたミリアは地面にコロンと横になった。



(ギルマスは当分動けそうにないし、何かいい方法がないかしら)







 ミリアがトレントの森で悩んでいた頃、ギルマスは通信の魔道具でギルド本部に連絡を入れていた。



 各ギルドは通信の魔道具が設置されており、ギルド間の連絡や報告に使用されている。


 通信の魔道具自体が非常に高価な為、各国でも国同士の連絡用に設置してある程度の貴重なもの。



 ミリアが持っている通信具はウォーカーが作った魔道具で、今登録されているのはウォーカーのみ。






「なあ、黄金の林檎見たくね?」


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