第16話 ハーミット王国

「監視がついてる。

逃げようと思えば逃げられるからこっちは問題ないけど、会うのは危険だな」



「じゃあ、これからどうする? やっぱりアスカリオル帝国に行く?」


「ここはローデリア王国とは交隣国対等な属国同士だろ?

俺たちに監視をつけて貰えるくらいにはローデリアと仲良しになったらしい。

宗主国に逃げ込めれば一番安全なんだけど、あそこの関所は半端なく厳重だからなあ。

Aランクのギルドカードだと無茶は出来ないし。


あそこでもし奴らの息がかかった奴がいたらお終いだ」



「・・分かった。時間はかかるかもだけど何とかする。

向こうに着いたら連絡するね」



「なあ、証拠の映像を俺に渡してくれたら俺たちがアルシュタットまで行ってちゃちゃっと片付けてくるんだけど」


「ごめん、迷惑かけてるのは知ってる。でも、これは私の戦いだから。

出来れば自分でやりたいの、ダメかな?」



「・・ミリアも成長したなぁ。

『にいちゃんにいちゃん』って後ろくっついて歩いてたくせに」


「えー、それ何年前の話?」



「俺達パーティーにはローデリア王国もハーミット王国も簡単には手が出せない。

一緒に来た奴らはこれからは帝国で商売するって言ってとっくに出発したしね。


こっちは大丈夫だから心配せずにやればいいよ。

但し、ここはまだ敵国だと思って用心しろよ」


「了解」




 通信を終えベッドに倒れ込んだ。


(兄さん・・)









 『よし!』と、元気よく起き上がったミリアはシャツとズボンに着替えて宿を出た。



 街は喧騒に溢れ、物売りの声が響いている。道は石畳で舗装され二階建ての店は赤茶けた煉瓦で統一されている。

 一階が店舗で二階が住居になっておりどの家の出窓にも花が飾られて街の雰囲気を明るくしている。



 ローデリアより店の内装も洒落た感じで、道ゆく人はみな明るい色のドレスやチュニックを着ている。



 この国ハーミット王国は魔道具や魔法技術に優れ、優秀な冒険者が多く誕生している事で有名になっている。

 ドワーフの鍛冶屋もあるらしい。



 関所前から見えていた森にはダンジョンがあり、そこから出てくる魔物の素材や宝箱から出る武器などが街の財源になっているとか。


(ダンジョンかぁ、一人で行くのは力不足だなぁ)





 物思いに耽りながら歩いていると、広場の正面に宿で聞いた通りの大きな建物が見えて来た。


 ザワザワとした雰囲気の中、沢山の人の波をかき分けてカウンターに並んだ。


「すみません。冒険者登録したいのですが」


「ではこの用紙に記入をお願いします」


「名前はニックネームでもいいと聞いたんですが?」


「ええ、構いませんよ。登録時に水晶による確認をするので問題ありません」


「確認?」


「犯罪者かどうか、後は魔力とスキルの確認ですね」


「・・犯罪者、スキル」


「個人情報は守られます。職員は口外しないよう魔法契約していますので」


「ありがとうございます」



 書き終わった用紙を受付に持っていった。


「お名前はミイ? 年齢は十八歳、特技は魔法で使用する武器はなし?」


「はい、それでお願いできますか?」


「えっと、はい。大丈夫です・・ではこの水晶に手を当てて下さいね」



 心臓がバクバクと音を立てて呼吸が上手くできない。


 大きく息を吸ったミリアは水晶に震える手を当てた。


 暫く何の反応もなかった水晶に鮮やかな何色もの色が現れ虹色に輝きはじめた。

 受付嬢が驚いて口をぽかんと開け、ギルド内が静まりかえっていった。



(えっ、こっこれって犯罪者認定じゃないわよね)



 水晶が派手な光を放ちパリンと音を立てて割れた。



(げっ、壊れた。弁償もの?)



『えへへ』と意味不明な笑いを浮かべたミリアを受付嬢が口を開けたまま見つめた。


「・・壊れた。壊した?」


 そっと手を下ろして直立不動で受付嬢の反応を伺っていると、ガタンと大きな音を立てて受付嬢が立ち上がった。


「ちょっとそこで待ってて!」


「あの、私犯罪者じゃないんで。壊したのは弁償をしま「そうだわ、一緒に来て!」」



 受付嬢に強引に手を引かれ二階にドナドナされるミリア。


(転移のお札・・ダメだ。ここじゃ使えない)



 ノックもせずにドアをバーンと音を立てて開けた受付嬢は、


「ギルマス! 大変です。水晶が壊れました!」


「・・だから? 本部に連絡す「虹色です。それからピカって」」




「落ち着け、何言ってるのかさっぱりわからん。それから、いつもの仮面取れてるぞ」


 机に書類を広げていたギルマスがペンを放り投げて面倒くさそうに答えた。



(仮面かぁ、確かにあの上品な受付嬢はいなくなったね)



 ミリアを引き摺ったままギルマスの前までズンズンと進んだ受付嬢は机をバン!と叩き、

「だからー、虹色でピカでパリンです」


(あ、書類が落ちた)



「・・茶、飲むか?」


 受付嬢が手を離してくれたので、落ちている書類を拾ってそっと机の上に戻した。


 ギルマスが立ち上がり(でかい!)三人でソファに座った。


「えー、嬢ちゃんの方が落ち着いてそうだな。何があった?」


「あの、先程冒険者登録に来まして。

水晶に手を乗せたらいろんな色が出はじめて虹色になりました。

それからピカッと光ったかと思うと水晶がパリンと音を立ててわれてしまって」


「・・確かに、虹色でピカでパリンだな」


「犯罪者じゃないですから。あと、水晶は弁償します。

帰っていいですか?」






「ん? 帰れるわけねーよな? 久々に面白そうな奴が来たのに」


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