第15話 最後の関門
ミリアの乗っている荷馬車の幌が開けられた。兵士が幾つかの木箱を叩いた後荷馬車に乗り込みかけた。
万事休す・・。
「おい! まだかよ!」
「さっさとしろよ、明日には向こうに届けるって契約なんだ。遅れたら責任取れよ、ったく」
荷馬車がガタゴトと走り始めた。
(護衛さん、ありがとう! グッドタイミング)
荷馬車は酷く揺れてあちこち木箱にぶつけたが、
(馬車嫌い・・克服してて良かった)
ミリアは夜までぐっすりと眠りこんだ。
ふと気付くと馬車が停まっていて、真っ暗な中にいた。
ボソボソと人の声が聞こえ、パチパチという音が聞こえるので野営しているのだろう。
(馬車から降りるのは明け方。それまで我慢我慢)
正義感の塊がいて、関所に連れ戻されたり次の関所で引き渡されたりしたら大変なので迂闊には動けない。
その他にも女が一人だと思うと不埒な考えを持つ輩もいるし。
音を立てない様にそっと起き上がりガチガチになった身体を解した。
外がほんのり明るくなりはじめた。幌の隙間からこっそり覗くとまだ誰も起きていない様で、火のそばに護衛が二人座っているだけだった。
しかも近くには雑木林がある。
そっと荷馬車を降りて姿勢を低くしたまま雑木林まで走る。
「おい!」
後ろから声が聞こえたがミリアは真っ直ぐに走り続けた。
幸い追いかけてはこなかったようで林の奥まで逃げ込んだミリアは、座り込んで商隊が出発するまでじっと息を潜めていた。
夕方、ミリアは隣国の関所まで辿り着き、入国希望者の列に並んでいた。
平民の着る質素なチュニックに着替えたミリアはこの旅で最大・最後の局面に対峙している。
あのまま荷馬車に隠れていたら、入国の記録のない犯罪者として捕らえられてしまう。
これからミリアは名前も素性も明かさないまま、不審がられることもなく関所を通り抜けないといけないのだ。
「身分証を」
(きた!)
「みっ身分証は持っていましぇん」
緊張し過ぎたミリアは思わず噛んでしまった。
兵士が眉間に皺を寄せミリアの全身をジロジロと眺め回した。
「・・奴隷か? 逃げ出し「違います! 逃げたのは本当ですけど、旦那から逃げてきたんです。あの、身分証は旦那に・・。でも、殴られるのは耐えられなくて」」
早口で捲し立てるミリアはここ数日の強行軍で疲れ果て、ボロボロで青褪めている。
「しかし・・身分証なしじゃあ」
「かっ帰るのは・・鞭打ちは嫌なんです」
兵士が悩んでいると、
「可哀想だが「だったら教会に行ったらどうだ? 教会が保護するかどうか決めてくれるだろ?」」
「・・そうだな。銀貨一枚持ってるか?」
「はい、あります」
ミリアは腰につけたポーチから銀貨を取り出して兵士に渡した。
「これが一時的な滞在許可者だ。
三日間しか滞在出来ないから大急ぎで教会に行くんだぞ。教会が許可してくれたら新しい身分証をくれるから。
三日を過ぎたら犯罪者として捕まるが、それ迄に身分証を手に入れられたらここに来てくれ。
差額の銅貨五枚の返金と正式な滞在許可証を渡すから」
「ありがとうございます」
「こんな若くてちっこい嫁さん殴るとか最低野郎だな。頑張れよ」
「はい」
(嘘は殆どついてないから・・逃げて来たのは旦那じゃなくて元婚約者達からだけど)
やり遂げられた安堵からうっすらと涙を浮かべたミリアは、兵士達の温かい目に見送られながら町の中に歩いて行った。
(漸くここまでこれた)
ミリアは街の宿屋にお風呂付きの部屋をとった。結構高かったけれど前金で払い、部屋に入って一番に湯船にお湯を貯めた。
湯がたまるのが待ちきれず、アイテムバックから出した石鹸だけを持って(服を脱ぎ散らかして)風呂に入り頭からお湯をかぶった。
(あーもう、最高。クリーンの魔法じゃこうはいかないもの)
何度も石鹸でゴシゴシ洗ってスッキリしたミリアはベッドに飛び込んで翌朝まで夢も見ずに爆睡した。
(うっ、部屋が大惨事になってる)
目が覚めたミリアが見た部屋の中は、脱ぎ散らかした服が床に落ちタオルや石鹸が転がっている。
身支度を済ませちまちまと部屋を片付けてから食事をする為に一階に降りた。
「朝のメニューは一種類ですけど良いですか?」
「ええ、好き嫌いはないから大丈夫です」
席に案内されると待つほどもなく料理が運ばれて来た。
焼きたての白パン・ベーコンと卵・スープ・サラダ。
(あったかい・・)
黙々と食べ続けて料理を完食し席を立った。
「ありがとう。美味しかったです」
部屋に戻ったミリアは鍵を閉めて、ウォーカーに連絡を取った。
「ミリア、着いた?」
「うん、昨夜着いて爆睡してた。今、朝ご飯食べて来たんだけどあったかくて最高だった」
通信の魔道具からウォーカーの笑い声が聞こえる。
「こっちはこれから朝飯だな」
「みんなは大丈夫?」
「うーん、大丈夫なんだけどもう暫く会えないかな」
「どうしたの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます