第14話 ひらすら歩き続けます

 翌朝眠い目を擦りながら荷物を片付けた。


 顔を洗って洞穴の外に出た。今日も嬉しい事に天気は快晴で朝露に濡れた木の葉が輝いていた。


 隠蔽魔法をかけて入り口を隠し指南魚で方向を確認し、湿った地面を踏みしめて歩き出した。



 洞穴から離れたところで朝食の準備をはじめた。

 メニューは昨日と同じ。

 組んだ石の中の小枝に火を付けようとしたら巨大な火の玉ができて、即席のかまどとその周りの木や葉っぱが丸焦げになった。


(うぅ、今日のお茶は諦めよう)


 はぁ・・と溜息をつきながら燃え滓に水をかけていく。



 チーズを挟んだパンを食べて水を飲んだらすぐに出発した。



 一時間くらい歩いた頃、近くに魔物の気配を感じた。

 運の悪い事に相手は複数で、恐らくキングかジェネラルがいる。しかもミリアがいるのは奴らの風上。


 既に相手に気付かれている。



 身体強化をかけエリクサーを確認。身をかがめ敵の動きを伺っていると、ゆっくりとこちらに近づいてくる。



 敵はオークの群を従えたオークキングだった。オークの数は凡そ二十で群れとしてはそれほど大きくないほう。



 オークは背がやや高く醜い人型の魔物で普通ならそれほど強くないが、キングがいるなら話は違ってくる。

 統率の取れた動きをしてくるし格段に強い。

 頭は豚で牙が生えており殆どが緑色かピンク色をしている。



(グロいよね、オーク)




 先頭集団が目に入った。ミリアは今ひとりきりだから、攻撃を一度でも受けたら終わると自覚している。



 ミリアは先制攻撃を仕掛けると決めて走り出した。【ウォーターカッター】で一匹ずつ確実に仕留めていく。


(六匹)


 周りに取り囲んだオークを【フラッシュ】で目眩し動きを止めた後【ウォーターカッター】を放ちながら駆け出した。


(四匹)


 斜め左前方から弓矢が飛んできた。離れたところに一匹、次の矢を既に構えている。


 狙いを定めて【ウインドカッター】を連発。


(一匹)



 キングは小柄なミリアが見上げるほどの大きさで、群れの一番後ろに立ちこちらを威嚇している。


 オークキングが咆哮を上げた。


 錆びた刀を持ったオークが叫びながら横広がりで走ってくる。【アイスウォール】【ウォーターカッター】

 二匹のオークに挟み撃ちされそうになり、慌てて後ろに飛び退った。

 両手を前に伸ばし二匹纏めて【ウインドカッター】


(四匹)



 キングが残ったオークを引き連れて前に出てきた。走りながらオークに【ウォーターカッター】

 ダメージは与えられたが倒せなかった。


 アイテムバックから掴み出した護符。【サンダー】【サンダー】【サンダー】【ウォーターカッター】


(残り二匹)



 体力が限界を超えて息が苦しいが、回復薬を飲む余裕のないミリア。



 一か八かの【ファイアボール】をキングの顔めがけて打ち込み、もう一匹のオークに【ウインドカッター】


(当たった!)


 顔を焼かれたキングが咆哮を上げ暴れ回っている。残った2枚を使ってキングに【サンダー】【サンダー】




(おっ終わった?)



 座り込んだミリアはキングを睨みながら回復ポーションを飲んだ。



 ジリジリパチパチと音がしている。

(ヤバい、山火事!)



 音のする方に向けて走りながら【ウォーターボール】を連発した。



 大きすぎたファイアボールの影響が残ってないかと暫く歩き回りながら、溜息をついて今回の戦いを脳内反省会するミリアだった。



 

 少しだけ休憩したミリアは『えい!』と掛け声をかけて立ち上がった。

『モンストルムの森』を抜け関所までの道はまだ遠い。






 その後二日かけて森を抜けた。何度か魔物と戦闘になったが無事に切り抜け、今は関所に向かう街道を目指して荒れ地を歩いている。


 野生の動物がちらほら見えるだけで危険はないが背の低い木があるだけの一帯には日陰がなく、焼けつくような日差しでミリアのシャツは汗まみれになっている。



(今のうちにここを抜けないと、今晩は徹夜になっちゃう)



 短い休みに水分補給をしながら歩き続けた。食欲はないが回復ポーションはまだ残っているので、身体強化をかけて前に進み続けた。



(塔に薬草を持って来てくれたネイサンに感謝? ないわー、不満しか出てこない)



 ネイサン・ライラ・国王・宰相・・後、王宮医師団に薬師達に? あと誰だっけ?



 いつか『モンストルムの森』に放り込む予定の奴らを数えながら歩き続けていると街道が見えてきた。


(やった! あと一息)



 ここから関所までならきっと夜には辿り着けるはずだと信じて気合を入れた。




 時折商人の荷馬車や駅馬車が走って行く。ミリアは彼らに見つからないように、街道から少し離れた所を歩いて行った。



 関所の近くに着いた時には空に星が瞬き、野生動物の鳴き声が微かに聞こえていた。



(この辺りなら魔物は出ないから)



 木の陰で寝ずの番をしながら夜を明かした。


 身支度を整え干し肉を少し齧って様子を伺っていると、兵士が二名出てきて関所の大きな扉を開けそのまま立ち塞がった。


 何か話しているがミリアの所まで声は聞こえてこない。何度か兵士が交代したが隙が見当たらないのでそのまま様子を伺っていた。


 昼前くらいになり馬車の音が聞こえて来て、荷馬車が三台と周りを取り囲む護衛六人の大所帯の商団がやってきた。




 兵士と護衛が話し始めた。ミリアがそっと後ろから荷馬車に近づき中を伺うと大量の木箱が積まれていた。

 乗り込み荷物の中程の大きな木箱の影に隠れた。


 兵士が荷改をはじめた。


「家出って、冗談じゃないぜ」


「どうせまた貴族だろ? くだらねぇ」


「ここの関所で止められるのなんざ初めてだよ。よっぽど金持ちのボンボンかなんかか?」



 兵士に対して聞こえよがしに文句を言う護衛達のお陰で情報が手に入った。

 息を殺しひたすら馬車が動きはじめるのを待った。


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