第17話 ギルマスは何故か《ちびすけ》って呼ぶ

「まず、ちびすけの心配してるとこから説明な」


(ここでも、ちびすけ)


「犯罪者登録はない、んで水晶の弁償は要らねえ。ここまではいいか?」


 ほっと安心して首を縦に振ったが、


「家出娘はお前か?」


 首を横に振る。



「まあ、そうだろうな。家出したのは貴族の娘だって言うからな。

お前はどう見ても貴族には見えねえし」


 ミリアがホッとしたのも束の間、


「どこから来た?」



「冒険者にはそう言うのは関係ないはずです」


「普通はな。ちびすけは怪し過ぎるから仕方ねえだろ?」



 ミリアとウォーカーは子供の頃の栄養不足のせいなのか背がとても小さい。

 しかも童顔なので成人しているようには見えないらしい。



「どこが怪しいんですか? ごく普通ですけど?」



 ミリアは無表情で反論したが、ギルマスは立ち上がり壁際に設置された棚から水晶を持ってきた。


「こいつはさっき下で使ってたやつより精巧に出来てる。

こいつでもう一回調べてみようぜ。その後で説明する」



 目立たずギルドカードを貰ってこの国を脱出したい。水晶は危険だと判断したミリアは、

「さっき下で一応ですがやりましたし、それで良いにしてもらう事は出来ませんか?」



ソフィア受付嬢さっきの記録出来たか?」


「はっ、壊れちゃったんで。結果としては計測不能ですね」


「な? やり直しだ」




 ギルマスに騙されている気がする。きっと騙そうとしてる。

 伸び放題でもさもさの髪は目を半分覆い隠し髭の剃り残しを右手でじょりじょりこすっているギルマスは凄く怪しい顔をしているが仕方がない。ミリアは渋々水晶に手を伸ばした。



 手を当てた後暫くして青・緑・白・茶・赤と発色していき最後に目の眩むような金色の光が出て静まっていった。



「こいつはすげぇ。ちび、お前いくつ魔法が使える?」


「何種類か使えます。得意なのと苦手なのがありますけど」



「スキルは知ってるか?」


「多分ですが、索敵と鑑定はあると思っています」


「その通りだ。レベルも高いしスキルもかなり使いこんでる。

今まで何してたんだ?」



「・・勝手に山に入って薬草摘んでましたから、そのせいだと思います。

登録は出来ますか?」


「出来る・・ことは出来るがなぁ。どうすっかなー」





 ギルマスがソファの背にもたれ、腕を頭の後ろで組んで凄く意地の悪そうな顔で笑いながらミリアを見ている。

 組んだ足をブラブラしてるのが途轍もなく胡散臭い。



(挑発にのっちゃダメ。ここは我慢よ!)



 無表情のミリアとニヤニヤ笑うギルマスの無言の戦いは、ソフィアの一言で幕を閉じた。


「ミイさんは聖女ってことですか?」


「はあ?」


 思わず間抜けな声を出したミリアはソフィアに顔を向けた。



「だって金色でしょ、なら聖属性も使えるって事でしょう?」



 かなり復活したらしいソフィアは仮面を半分くらい被れたみたいでかなり落ち着いている。



「聖属性なんて使えません。私は【ヒール】でさえ使えませんから」


「試した事あるの?」


「へ?」



「今まで試したことがないなら、試してみては如何ですか?」



「いえ、あの。取り敢えず必要ありませんから。教会とか絶対遠慮したいんで」



「あー、それすっげぇ分かる。教会とかマジでクソだからなあ。聖女認定なんてされたら地獄だよな。

今の問題はちびのランクだ。

どうすっかなあ、こいつをFランクとかあり得んだろ?」



「試験とかはないんでしょうか?」


「そうだな、まあそれくらいしかないよな。

ソフィア、筆記試験やるから持ってきてくれ。その後すぐ実技試験だ」


「今すぐやるんですか? 勉強の時間とかは? ミイさん困りませんか?」



 ギルマスの顔にムカつくミリアだが我慢・我慢。



「ソフィアさん、大丈夫です。宜しくお願いします」




 筆記試験を終わらせて一階に降りた。


 訓練場にギルマスと一緒に行こうとするとギルドに残っていた冒険者が騒ぎ出した。




「ギルマス、何がはじまるんだ?」


「あ? 何でもいいだろ? さっさと働いてこいや」


「えー、ギルマスが働くの見る方が面白そうじゃん。超珍しいし」




「はあ? 俺はお前らと違ってせっせと馬車馬のように働いてますぅー」


「きっとヨボヨボの年寄り馬だな」


「車輪傾いてるぜ」



 ギルマスの散々な言われように普段の行動が垣間見える。



(なんだかすっごいわかる気がするのは気のせいかしら?)






 野次馬がぞろぞろと集まってきた。職員の制服もちらほらと見える。



(デジャヴ? 今回はギルマスのせいだけどね)



「ちび、試験官は俺だ。武器は?」


「は? ああ、これで」



 ミリアが短い木の棒を出すと野次馬達がゲラゲラと笑った。


「ちびちゃんマジかよ、それ普通の木の棒だろ? そこら辺に落ちてるやつ」



(・・野次馬うるさい、いいじゃない別に)



「んじゃ行くか、思いっきり・・いや、俺がに働いて張ってる結界だからな、訓練場壊すなよ。

本部の奴ら、細けえ事に超うるせえんだ」




 ギルマスの目つきが変わった。


「いつでもいいぜ。はじめ!」



(ふっふっふ、散々揶揄ったお返し!)



 ミリアは一番苦手な【ファイアボール】を天井めがけて打ち込んだ。


 案の定暴走して大爆発が起きた。天井に巨大な穴を開け、燃えた木や石材が音を立てて落ちてくる。


(まずい!)


 必死に走り出したミリアの手にはエリクサーが握られている。




 ギルマスは咄嗟に結界を張っていたのでかすり傷一つついてなかった。『よかった~』ミリアは腰が抜けたように座り込んだ。



(本気の暴走ヤバい。火の魔法はやっぱりやめとこ)



 野次馬達はみんなあんぐりと口をあけて呆然と立ち尽くしていた。




 腰に手を当てて座り込んでいるミリアを上から見下ろしているギルマスは仁王のような憤怒の顔をしていた。


「試験終わりだ。てめえ、俺を殺す気かよ。あと、訓練場壊すなって言ったろうが!」



 訓練場の天井からは綺麗に晴れた空がぽっかりと見えていた。





 天井を見上げたミリアは、


(ふふ、ざまぁ)


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