第7話 冒険者ギルド初日

「冒険者の登録をしたいんですが」


「字は書ける? じゃあこれに記入してね」


(字を書く練習しといて良かった)



 冒険者ギルドの中は思ったより人が少なかった。後で知ったのだが人が増えるのは朝と夕方以降で、お昼前の今は丁度その合間だったそうだ。


 正面にカウンターがあり、三人の女性が座っている。

 壁には様々な紙が貼ってあり、左手にはテーブルとスツールが六個ずつ。

 右手には広い食堂がありここでも良い匂いが漂っている。


(お腹・・恥ずかしいから鳴るなよ)



 名前・年齢・特技を記入しカウンターへ持って行った。


「このまま登録したら最低ランクのFランクから。自信があれば試験を受けて、上のランクからはじめられるけどどうする?」


「試験、受けます。どうすれば良いのか教えて下さい」


「Eランクなら実技のみ。Dランクを狙うなら筆記もあるんだけど?」


「Dランクを狙ってみます」


「ならこれを読んで覚えておいてね。

難しくはないけど読めないとこがあったら声をかけてね。試験は明後日だよ」


「はい。あそこのテーブル使っても良いですか?」


「勿論」






 夕方過ぎ、ギルドの中が段々騒がしくなって来た。

 カウンターの女性の人数も五人に増えて、依頼帰りの冒険者の手続きや素材の買取で忙しそう。


 暫くして仕事が一段落したのか、ウォーカーの受付をした女性が横目でちらちら見てくるのに気が付いた。



(やばい、目があっちゃったよ。ずっと座ってるから? 怒られるかな)



 女性がカウンターを出てウォーカーが座っているテーブルの所まで歩いて来た。


「ウォーカー君、ご飯は?」


「あー、はい。もうちょっとしたら食べに行ってきます」


 女性は腕を組んで首を傾げながら、


「・・ねぇ、今晩の宿はもう決まってるの? ギルドで安全なとこ紹介してあげるよ」


「ありがとうございます。今度教えて下さい」


(う、このままここにいたいけど・・)


「ウォーカー君、その本貸してあげるからご飯食べて宿でしっかり休んだら?」


「はい、もうちょっとし「ちょっとおいで!」」


「えっ? あの?」




 連れて行かれたのは屋台の串焼き屋の前。


「おじさん二本、ううん三本ちょうだい」


「あっあの、僕は食べられないんで」


「ダメ」


「毎度あり!」


「いえ、あの・・「食べなさい」」


「あー、仕事疲れたー」


 話を聞いて貰うために、ウォーカーは大きな声を出した。


「食べれないんです!」


 受付の子・・リラは戸惑ったような顔で、

「大丈夫だよ、奢ったげるから」


「ずっと何も食べてないから、今肉なんて食ったらお腹壊すと思うんです」


「えっ? あっ、ごめん」


「いえ、ありがとうございました」


 ウォーカーは頭をペコリと下げてから、ギルドに戻ろうとした。


「坊主、今日の肉は俺が預かっとくから食えそうになったら一番に来いよ」


「はい!」


「あの、ごめんね。もっとちゃんと話聞けば良かった」


「リラちゃん、そそっかしいからなぁ」


「おじさん! 酷いよぉ。そうだ、ちょっとここで待ってて」


 リラはギルドの裏に走って行った。


「あいつ、良い子だろ?」


「今日会ったばかりなんで・・」



 リラが着替えて戻ってきた。おじさんに『バイバイ』と手を振ってウォーカーの手を引っ張ってズンズン歩いて行く。




「ただいまー。母さん、今日の晩御飯なに?」


「お帰り。全く子供みたいに・・あら、お客さん?」


 リラによく似た女性がエプロンで手を拭きながら出てきた。


「うん、スープとかシチューみたいなのある?」


「シチューならあるけど?」


 リラはウォーカーの手を掴んだまま奥の部屋のテーブルまでウォーカーを連れて来て、


「座ってて、今シチュー持ってくる」



 呆然としたまま椅子に座ったウォーカーの前に熱々のシチューとパンが置かれた。


 黙ってシチューの皿を見つめていると、リラが心配そうにウォーカーの顔を覗き込んできた。


「食べて、これなら大丈夫でしょ?」


「えっと、いっ良いんですか? 僕お金が・・」


「勿論! 大丈夫だよ」



 久しぶりに食べる温かい食事。お腹がびっくりしないようにゆっくり、少しずつ口に運ぶ。

 涙腺が緩むのを止められないまま、黙々と食べ続けるウォーカーをリラとその母親が見つめていた。




「ごちそうさまでした」


 パンでスープ皿の中のシチューまで拭い取り、名残惜しげにスプーンを置いたウォーカーに、

「おかわりしなくて良いの?」


「はい、今はこれくらいが丁度良いです」


「そっか、二階にベッドがあるからね。宿なんて取ってないんでしょ?

但し、ギルドには内緒だよ。

特定の冒険者に肩入れすると怒られるから」






(ミリア、お休み)


 冒険者の町についた初日、一週間ぶりのベッドでぐっすりと眠りについた。


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