第8話 弟ポジションとデクスター
「ウォーカー、お帰り」
「リラさん、ただいま。完了報告と素材の買取いいですか?」
「勿論。この依頼あと四日も余裕があるじゃん。
相変わらず仕事が早いね。素材は裏に持ってってね」
ウォーカーが冒険者になって二年。既にBランクになっており、最近は指名の依頼も増えて来ている。
「このギルドの中でも最速のBランクだよ。で、もうちょっとでAランクとか凄いじゃん。
うー、来た時の宿無し・欠食児童があっという間にAランク?
もー、リラ姉ちゃんは嬉しくて泣いちゃう」
「リラさんが泣いたの見たことないです」
ウォーカーとリラの掛け合いに周りの冒険者や受付の女性達が笑っている。
いつも礼儀正しいウォーカーは、可愛い顔と十三歳と言う年齢からみんなの弟のポジションを与えられている。
誰ともパーティーを組まず、常に一人で行動している様子も周りの庇護欲をそそっていることに本人は気づいていない。
「ぐっ、あんたはもう。空気を読めって。
でもさぁ、そろそろ防具買い替えたほうがいいんじゃない?」
「そうかな? もう少し使えると思うんで後で手入れしておきます。
ありがとうございました」
ウォーカーが帰ろうとすると、厄介な奴がドアから入って来た。
「へー、坊やじゃん? お仕事済んだのかなぁ? お利口ちゃんでちゅねー」
「デクスター、ギルド内は喧嘩禁止よ。それに赤ちゃん言葉がキモい」
「リラ、俺が喧嘩? 誰と? まさか坊やと?」
ウォーカーはデクスターの関心が逸れているうちにと、そっとドアに向かって歩いて行った。
「おい待てよ、クソ坊主。なに偉そうに帰ろうとしてんだよ」
「・・」
(下手に喋るとますますめんどくさくなるしなぁ)
デクスターは二十二歳でウォーカーと同じBランクの冒険者。
たかだか十三歳の子供が同じBランクなのが気に入らないようで、顔を合わせるたびにこうやって絡んでくる。
「ん? 今日はもう仕事終わりか? だったら勝負しようぜ。
模擬戦ってやつ、本物のBランクってものを俺様が教えてやるよ」
ちらっと周りを見るとニヤニヤしているのはデクスターのパーティーメンバー。
残りの冒険者達は心配顔でこちらを見ている。
(ミリアを迎えに行くまでにあと一年か。デクスターをこのままにしとくのはやだなぁ)
「いつやる?」
「へぇ、逃げないんでちゅか。そりゃすげぇ。
よしこれから裏の訓練場にこい! ビビんなよ」
「分かった、その代わり条件がある。俺が勝ったら二度と突っかかってこないで欲しい。
俺や将来のパーティーメンバーに」
「おー、いいともいいとも。お安い御用だぜ。その代わりお前が負けたら、土下座な」
ぞろぞろと大勢の野次馬を引き連れて訓練場にやってきた。
「ここなら魔法障壁があるから、魔法をぶっ放しても何してもオーケーだからな」
判定はギルドの職員が担当し、勝負がはじまった。
「では、はじめ!」
開始と同時にデクスターが剣を抜き払った。
「どりゃあー!」
デクスターは剣に魔法を付与しているらしい。隙だらけで大振りだが力のある振りで炎が飛び出しウォーカーを襲う。
ウォーカーは【ウォーターボール】で炎を相殺した後、【アイスエッジ】でデクスターを足止め。
「くそ、卑怯な奴め」
デクスターは足元の氷の刃を火を付与した剣で焼き切り、ウォーカーに向けて走り出した。
「これで終いだ!」
と、叫びながら剣を振るうデクスター。
ウォーカーは【クリスタルシールド】で防御【アイスランス】で攻撃した直後、気が付くとデクスターの首に持っていた木の枝を押しつけていた。
「勝負あった! 勝者、ウォーカー」
地面に崩れ落ち「くそー!」と叫んでいるデクスターに、パーティーメンバーが走り寄って行った。
意外だったがメンバー同士は仲がいいようだ。
「何だあいつ、詠唱破棄とかマジ凄えじゃん。武器が木の枝?」
「ソロだよな? パーティー組まないのか?」
「うちに欲しい。あれで十三だろ?」
「じゃあこれで、もう俺に関わらないで下さい」
ウォーカーは野次馬からかかる声を無視して、さっさとギルドを後にした。
細い通路を抜け、カウンターの横を通り過ぎようとした時、二階からギルドマスターが声をかけてきた。
「ウォーカー、ちょっと来てくれ」
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