ドワーフの森へ

第22話 塩漬け依頼を押し付けられたけど

「ノッカー?」


 トレント引っ越しの翌日、ギルドに着いた途端ギルマスに拉致されたミリアは聞いたことのない名前にキョトンと首を傾げていた。



「うちの塩漬け依頼の一つだ。これを解決できたら一件にしてやる」



「塩漬け依頼で一件はセコくないですか? 二件で」


「お子ちゃまな体型で商売上手だな」


「たったいっ体型とお仕事は関係ありません!」


「ミイちゃん、ち○ぱいだもんね」


ディードリアード、酷い」


「・・お前、ドリアードに名前つけたのか?」



 ギルマスが心なしか虚な目になった気がする。



「はい、昨夜名前つけて欲しいって」


「はあ、お前その意味わかって・・まあいい。ちびすけだしな、聞かなかったことにするわ。

この街にドワーフの工房があるの知ってるか?」


「噂は聞いた事があります」


「そこからの依頼でな、ノッカーって言う妖精を説得して欲しいって。

お前ならディーみた「おっさん! おっさんはディーって呼んじゃ駄目!」」



 怒り心頭のディーが真っ赤な顔でギルマスを指差している。



「ケチくさいこと言うなよ」


「駄目ったら駄目なの。これはお友達の印なんだから」


 ディーが空中で器用に地団駄を踏んでいる。


「まあその、お前ならノッカーと話せるんじゃないかと思ってよ。

詳しい事はドワーフのガンツに聞いてくれ」



 さらっとディーの話をスルーしたギルマス。



「解決出来るとは限りませんけど良いんですか?」


「ああ、精霊を見つけられる冒険者なんてうちにはいねえし。

ディエチミーラがいりゃ何とかなるだろうが、一年以上前に活動休止宣言してやがる」




【ミリアって言うのはね、一万っていう意味なんだ。

俺達のパーティー名のディエチミーラは別の国で一万って言う意味。

お前が参加するのをみんなで待ってるからな】



(兄さん・・)



「ミイちゃん、大丈夫?」


 ミリアが我にかえるとディーがミリアの膝に立って涙を拭いてくれていた。


「ごっこめん。ありがとう、もう大丈夫だから。

ガンツさんの工房に行ってきます。

成功したら二件分で宜しくお願いします」



 ギルマスが首をかしげてミリアの後ろ姿を見つめていた。





 教えてもらった通りにギルドを出て左の道を進み、二つ目の十字路を右に曲がると途端に人通りが少なくなった。



「ミリア、さっきはどうしたの?」


「ディエチミーラは兄さんとその友達が作ったパーティーなの。突然名前が出たから吃驚しちゃった」



 三年前、ウォーカーは二人の仲間と共にディエチミーラを結成した。

 ・錬金術師のウォーカーがリーダー

 ・彫金師のロビン

 ・占い師のアレン



 結成当初は誰もが馬鹿にしたパーティーだったが、ドラゴンを退治した事で結成から一年立たないうちにSランクになった。


 しかもその後全員が単独Sランクになり、世界のトップに君臨している。



 一般職又は不遇職と呼ばれる彼らだが、


 ・錬金術師のウォーカーは素材集めの為に魔法を極める。後衛で魔法使い

 ・彫金師のロビンは修行中に魔法陣に興味を惹かれ冒険者に。前衛で何故か大剣使い

 ・占い師のアレンは霊山を訪ねた時複数の精霊と出会い契約。本人の好みで盾使い


という強者揃いだった。



 現在は占星術師のグレイソンが回復役で参入している。





 一年と二ヶ月前、ディエチミーラがローデリア王国からの依頼を受け『モンストルムの森』の深部にある《失われた神殿》を攻略中ロビンが片腕を落とす大怪我をした。


 ミリアの作ったエリクサーで欠損した腕を直して事なきを得たが、その事を王家に知られてしまいミリアの存在が発覚してしまった。


 ミリアのエリクサーを狙い強制的に陞爵・婚約させた事に怒りを覚えたディエチミーラが活動休止を決めた。




「ディエチミーラのみんなは今どこにいるの?」


「この国にいるけど監視が付いていて。

多分だけどそろそろ別の国に一度移動するんじゃないかな」


「近くにいるのに会えないって辛いね」


「頑張れば会えるから大丈夫。今は我慢我慢」





 ガンツの工房は細い路地を暫く歩いた突き当たりにある、大きくて古い平屋建ての家だった。

 カーン・カーンと金属を打つ音が聞こえる。


 看板も何もないドアをノックして待っていたが一向に返答がないので、そっとドアを開けて声をかけた。



「こんにちは、ギルドから来ました」



 パタパタと足音が聞こえ奥から人が走り出してきた。


「気づかなくてすみません。ここ音がでかいから」


 逆光になっていてよく見えないが、背の高さからドワーフではない事だけは分かった。



「ガンツさんの依頼でギルドから来ました」


「うわ、マジですか? すげぇ、どうぞ中へ」



 ドアを大きく開けてミリアが中に入ると、


「ミリア? えっ? ミリアだよね」



 肩にタオルをかけてエプロン姿のマックスが呆然と立ち尽くしていた。



「マックス?」



 ローデリアにいると思っていたマックスとこんな所で出会うなんて・・。



「なんで? なんでここが分かったの? ってか、ギルドから来たって」


「ええ、ガンツさんの依頼の件で来たの。ここにマックスがいたなんて知らなかった」



「もー、連絡が取れなくなってどんだけ心配したと思ってるんだよ!

何度もギルドにメッセージを残したのに。

一年以上前からプッツリと返事が来なくなったから、もしかしたらってあれこれ悩んで・・」


「ごめんね、ちょっと色々あって」


「さあ、こっちに来て。座って話をしよう」



 マックスに手を引かれ店の右奥の部屋の方に連れて行かれた。

 背の低い机とクッションが置かれた部屋の壁際には棚が並び、本や鉱石がぎっしりと詰め込まれている。


 マックスがお茶を淹れてミリアの向かいに座った時、後ろから大きな声怒鳴り声が聞こえてきた。



「仕事ほっぽらかして女連れ込むなんざ百年はええんだよ!

オムツが取れたばっかのガキがなに調子に乗ってやがんだ!」




「あ、はじめまして。依頼の件でギルドから参りました」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る