第45話 ユグドラシルのワンド

「ハーフエルフは明日も会いに来てくれるかもしれないです。

コンポジット・ボウが気になったみたいで、お兄さんの許可が出たら来てくれるって」


「初日で会えたのはラッキーだったな。このまま上手くいきゃ良いんだが。

今晩は早寝だな」



「えっ、火魔法の練習しますよ?」


「お前結構スパルタだな。たまには休みたいんだけど」


「取り敢えず少し部屋で休みますね。ヴァンとディーも少し休もう」



 ぞろぞろと並んで部屋を出ていくミリア達を見ながら、


「ヴァナルガンドのヴァンか」


と、ギルマスが呟いていた。





 深夜の訓練場でミリアは青い顔をしていた。


「ちび、問題が何か分かってるよな」


「はい、ごめんなさい」


 ミリアは項垂れて手に持った木の枝を見つめていた。



「最初に比べりゃ暴発する回数は減ってきた。だがちょっと油断するとこれだ」



 訓練場の壁の結界が破れ、壁にひびが入っている。


 中程度の大きさの【フレイムボール】を暫く維持した後、的に向けて放ったつもりだったが炎はどんどん大きくなってしまった。

 コントロールの効かなくなった炎が壁にひびを入れたところにミリアが立て続けに放った【ウォーターボール】で消し止めた。



「失敗をイメージするな、もっと自分を信じろ。

ちびすけは魔力が多いんだから気持ちが振れたら失敗する」


「はい」



 ちょっと待ってろと言ったギルマスが、訓練場の端にあるカウンターの所に行ってワンドを持ってきた。


「ガンツが今日持ってきた。ユグドラシルの枝とドラゴンの心臓の琴線。ヒヒイロカネを使ってますます強化してある世界最強のワンドだそうだぞ」



 ミリアはワンドの威力が怖くて手が出せなかった。


「もう少し練習してからにします」


「杖を信じてみろ。強さってのは色々あんだよ」


 ギルマスが「ほら」と、無理矢理ミリアにワンドを押し付けた。



「まずは自信のある水魔法を使ってみな」



  【ウォーターボール】・・

  【ウォーターバレット】・・

  【ウォーターカッター】・・。



「どうだ?」


「すごく使いやすい。コントロールもし易くて、反応が早いって言うか頭で考えるのと同時に軌道が変わってくような」



「なら、やってみるか?」


 ミリアは頷いて的に向かってワンドを構えた。


(イメージ、この杖なら絶対にできる。杖を信じて)


  【フレイムボール】・・。


(このまま大きさを維持して)


(的に向けて・・)


 軽くワンドを振り下ろした。炎の玉は大きさを変える事なく真っ直ぐ的を撃ち抜き消えた。



「凄い・・できた!」


「やったな、これからはこのワンドで練習だが今日は終わりだ」


「えっ」


「てめえ、俺はこれから壁を直さなきゃいけねえんだよ。

ちびすけはさっさと寝やがれ!」




 頭を下げてすごすごと訓練場を後にしたミリアは、ベッドの枕元にワンドを置いて眠りについた。






 翌朝いつもより早く起きたミリアは、いそいそと準備をしてトレントの森に転移した。


 ケット・シーが既に広場で待っていたが「おはよう」と挨拶しながらも、ミリアは周りをキョロキョロと見回していた。



(来てくれるかな?)


『既に来ておるぞ』



 もう一度キョロキョロと辺りを見回すがミリアにはわからない。


『隠匿魔法を使っておる。エルフの中でもかなり力のある奴よの』



 魔法のレベルが相当高いのだろう、フェンリルが手放しで褒めた。




 ミリアはコンポジット・ボウをアイテムバックから出し声をかけた。


「おはよう」


「おはよう! 出ておいでよ、ミイは意地悪なんてしないから大丈夫だよー」




「なんでドリアードとフェンリルが人間なんかと一緒にいるんだ!?」


 よく響く少年の声だけが聞こえてきた。



「おい、俺様もいるぞ」


「・・」


 可哀想なケット・シーは完全に無視されている。エルフにとってケット・シーは人間と同じ扱いのようだ。



「出て行け、人間なんかに用はない」


「そのままで良いから話をしてくれないかしら?」


「話なんてしない。人間は敵だから」

 


「確かに敵もいるけどそうじゃない人だっているわ。多分だけどエルフもそうなんじゃないかしら。

実は、昨日妹さんに見せたコンポジット・ボウの事でお願いがあって来たの」


「・・」



 返事はないがいなくなった訳ではないと信じて話を続けた。


「エルフは弓が上手いでしょう? だからこれの使い方を教えて貰えないかなって。

どうしても上手くいかないの」


「・・何で僕達がそんな事教えなきゃいけないんだよ」


「にいちゃん・・」


 ハーフエルフの小さな声が聞こえた。



「そうなのよね。お返しに私で出来ることないかな? って考えたんだけど思いつかなくて」


「なのに教えろなんて図々しいよね」


「にいちゃん、あれやってみたい」


「・・カノン、ダメだ。人間に捕まったら殺されちゃうんだよ」


 仲の良い兄妹なのだろう、妹の懇願に兄がかなり焦っている。



「だって、ドリアードがだいじょーぶって。 ふわもこかわいいね」



「私にして欲しい事を考えてみて、もし何か思い付いたら教えて欲しいの」


「話してごらんよ。ミイちゃんなら何とかしてくれるって。あのヘルでさえ説得したんだから」


「「えっ?」」


 エルフとミリアの声が重なった。


「ミイちゃんはヘルにガーンて言って、ヴァンが友達になったんだよ」


「でっディー、それはなんか違う」



「ヴァンって」


「フェンリルの名前だよー。ミイちゃんが付けたの、かっこいいでしょー」


「えーっ、俺様にも名前つけろよ! ミイ、仲間外れにすんなってばぁ」



『追放されし者よ、臆病風に吹かれたまま生きるか?』



「えっ、追放?」



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