第51話 毒好きのミリア
ゲホッゲホッと咳き込みながらディーが抗議している。ヴァンは黙ったままミリアの行動を目で追いかけていた。
イタチの臭いは【クリーン】で消したが、気持ちの萎えてしまったミリア達はボス部屋を出た記録水晶の近くで一夜を明かす事にした。
「あの臭いはむりー、まだ臭いのが残ってる気がする」
「ごめんね、戦いは早く終わったけど次からは絶対にやらないって決めた」
『・・あの臭いの中で素材の採取ができるミリアが何故、我に風呂に入れと煩く言うのか理解しかねる』
ヴァンはかなり本気で怒っているよう。
「えっ、んーと」
「ふふ、ミリアちゃんこれからヴァンにおふろーって言えなくなっちゃったねー」
「言う、今まで通り言うわよ。もちろん」
ヴァンとディーは基本的に食事は不要だが食べられないわけではないので、飲み物や食事を色々出して準備した。
ヴァンにはお肉と野菜の料理、ディーには甘いデザート。
ミリアはサンドイッチとスープ。
「本当は四十五階まで行きたかったよね」
ディーが次のお菓子に手を伸ばしながら言った。
「うん、そうすれば周りに人がいるいないを気にせずに済んだからね」
「ヴァンは人が来たら仔犬になるの?」
『その方が煩く言われずに済むであろうな』
「でもこんな階層に女の子と仔犬がいたら吃驚するよねー」
ディーはその光景を想像してみたようで楽しそうにケラケラと笑った。
念の為魔物除けと鳴子を準備して、ミリアはちょっとだけ・・と思いつつ横になった。
その隣でヴァンとヴァンの背中に乗ったディーもうつらうつらしている。
四十一階から四十四階はアンピプテラやワーム、コカトリスなどの小型のドラゴンタイプが出現した。
砂地に足を取られ狙いが定まりにくく、空からの攻撃と同時に地面から出てくるワームに苦戦を強いられた。
四十五階のボスは貪欲の象ベヒーモス。
二本の角と
「ベヒーモスは攻撃力が高いし、強力な土魔法を操ってくる」
『水魔法か』
「ええ、ディーは足止めをお願い。ヴァンは尾の攻撃に気を付けていつも通りに。私はウォーターランスで削っていく。鼻が邪魔よね」
『ベヒーモスでは遊ばんのか?』
「遊ばないわ、ネタが思いつかないの」
扉を開き中に入っていくと部屋の中央にベヒーモスが立っていた。
長い鼻を振り回し雄叫びを上げた。鼻を狙い、【ウォーターランス】・・外した。
ベヒーモスの下から複数の木が突き上げ、ベヒーモスに突き刺さった。
(うわ、下から股間に・・)
ベヒーモスが怒り咆哮と共に巨大な岩を飛ばして来た。【ウォーターウォール】
ヴァンが次から次へと飛んでくる岩をかわしながらベヒーモスの鼻に鋭い牙を突き立てた。ベヒーモスが暴れヴァンを振り回す。
ミリアが後ろに回り込み立て続けに【ウォーターランス】で尾に攻撃を仕掛け切断。
ヴァンに鼻を噛みちぎられたベヒーモスは血を撒き散らしながらミリアに殴りかかった。
「ヴァン、避けて!」
ミリアはバジリスクの血を鏃に仕込んだ矢を番えてベヒーモスの顔面を狙った。
鼻のちぎれた顔面に矢が深く刺さり、ベヒーモスが後ろ向きに倒れ込んだ。
舞い上がった砂埃がおさまった時、仰向けに倒れ込み絶命したベヒーモスがいた。
「さて、素材をいただくわね」
ミリアは記録水晶の前で考え込んでいた。
「ミリア、どーしたの?」
「うーん、ちょっと気になる事があって。ヴァンはどう思う?」
『途中で気配が消えたな』
意味がわからないディーは首を傾げている。
「ベヒーモスの動きが途中から変わったの。弱くなったって言うか、そのお陰で尾が切り落とせたような感じだったのよね」
消えた気配は気になるが、ミリア達は一旦それについては保留にして先を急ぐ事にした。
四十六階から四十八階はそれまでに出てきた魔物が群れで出てきた。
アンデット・キメラ・ワームやミノタウロス。
アンデットには光魔法、状態異常に弱いキメラには毒、ワームやミノタウロスには魔法攻撃。
「なんかミリアが集めまくってる毒って役に立ってるよねー」
『毒薬好きのミリアじゃからな』
「違う、ぜんっぜん違うから!」
場違いに明るい笑い声がここでも響いていた。
四十九階は水蛇ヒュドラ。
九つの頭と四本の足と翼を持ち、体内に強力な毒を持っている。
この頭は何度斬り落してもすぐに生えてくる為、斬り口を焼かなければならない。不死身の首はその中の一つのみ。
「首を切断した後直ぐに炎魔法で切り口を焼くわ。
ヒュドラを倒した後は体内の毒を採取したいから宜しくね」
「またまた薬師の素材?」
「それもあるかも。ヒュドラになんて滅多に会えないしね」
『・・毒薬好きの異常者』
「ヴァン、それ酷いと思う」
「でも、ミリア宝箱はいらないけど毒はいるって言うもんねー」
扉を開けて中に入ると、今までとは違い部屋の中は静まりかえっている。
部屋の奥の暗闇に幾つかの光がチラチラと瞬いていた。
「ヒュドラの目・・」
ズシンズシンと大きな地響きを立ててヒュドラが出てきた。
「ひぇー、でっかーい」
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