2年目、金沢に戻ったカンナ
蹄跡の50
便乗できる馬運車なども無いので、カンナは金沢市まで北陸新幹線でぐるっと帰って来た。
「あ~疲れた~」
そう言っている暇はない。明日からは金沢の延厩舎で調教騎乗を再開するのだ。
「手塩とも久しぶりに会えるな~!絵美里ちゃんにメッセで写真を送らないと」
厩舎の飼い猫、手塩。アキノドカの気性難?解消にも一役買っている彼とも、久々に会うことになる。アキノドカは既に入厩しているらしいので、もうよろしくやっていることだろう。
「ノドカ、大きくなってるのかなあ。小さくなってたらどうしよう…」
南関遠征時、放牧先に会いに行った時は特に変わった感じが無かったが、できればもうちょっと大きくなっていて欲しい気もする。
「どないなってるかなあ~!」
気になり過ぎて、延師にメッセを送った。
『先生!ノドカどうなってます!?』
師からは釣れない返事が来た。
『特に変化はないなあ~』
「特に変化はないってえー!?」
特に大きくはないってない、小さくもなってないけど!という意味か…
「成長していて欲しいなあ…」
その日は実家に帰って、翌日から競馬場へ行く予定だ。つまり、その時がアキノドカとの再会の時だった。
「先生、お久しぶりです!」
「お~!頑張ったなあ~!」
「本当よ!あなたが南関であんなに勝つなんて思わなかった!」
厩舎の事務室に顔を出すと延師がいる。奥さんの厩務員・木芽もいる。馬房の方を見に行くと、温井以下の厩務員たち(と言っても3人)が準備に追われていた。
「おっ、戻って来たんか!早速手伝え!」
「はい!」
カンナは早速、馬房に乗り込んでいった。
「えっ、ノドカ…?」
数ある馬房の中には当然、アキノドカもいる。彼女を一目見て、カンナは身震いした。
「大きくなってるじゃん…」
腹周りはかなり余裕があるように見えるし、トモにも十分な肉が付いている。
「どうや、ええやろ?」
温井はひょっこり顔を出して言った。
「帰って来たときは、別にそうでもなかったんやけどなあ。ここ数日、急にカイバ食いが良くなったんや」
「そうだったんですか…」
このまま行けば、アキノドカの復帰戦は5月の予定になる。石川ダービーのトライアル戦だが、温井は腹案を持っていた。
「カンナ、お前は新しい名古屋競馬場で乗ってみたくないか?」
「新しい…弥富の競馬場ですか?」
全年度途中までは名古屋市内・土古にあった名古屋競馬場は弥富市に移転している。そこで、4月に1700mと同距離の3歳牝馬銃床が開催されるのだ。
「ちょうどええと思わんか?全国交流重賞だから、相手の格は保証されるやろうし、手ぇ抜いてまうノドカもビッシリ走るやろ」
「なるほどぉー」
カンナはうなる。またも遠征競馬となるが、アキノドカとて今や重賞馬だ。様々な競馬場を経験していることはマイナスには働かないだろう。
「じゃあ、4月末目標と思って頑張らないとですね!」
「そんな思い込まんでええんや!その、な?そういうこともあるんやと思といてくれたら…」
「全国からライバルが集まって来るよ!楽しみだね、ノドカ!」
カンナは完全にその気だった。温井は打ち明けるのが早すぎたと反省している。
「若先生にもプライドっちゅうモンがあるからなあ…」
温井はカンナの上司ではないし、まして師匠ではない。あくまでカンナの管理調教師は延信太師だ。その彼女に意見を強いたと思われては、後々まずいことになるかも知れない。特に、木芽相手には…
「こうなったら仕方ない」
温井は腹を括った。
「カンナ、名古屋のことは俺が先生に伝えるまでは黙っとれ。先生にも、目指す目標っちゅーモンがある…はずや」
「あ、そうですね」
素直なカンナはそれだけ言われれば黙る。扱いやすい奴で助かった…と思う温井なのであった。
調教でアキノドカに跨ってみると、それはそれは力強かった。2歳時までの線の細い感じが消え、軽く流しただけでもダッシュ力が増している感じがする。
「先生、どこが変わりない~ですか!?」
カンナは師が昨日のメッセに適当な返事を返したのではないか、という疑問を呈すと、師はそれを必死に否定した。
「そんなことは無いで~!?いきなり良くなったんや、ホントや!なあ、温井さん~?」
「ええ、まあ、そもそもノドカは今日が初の騎乗調教ですからね」
「そやろ~!?」
なるほど、とカンナは腑に落ちた。彼女の師匠はアキノドカに関して、体つきからはやぼったい印象を受けたのだろう。そもそも、師は馬の状態は走らせてこそ分かると思っている。
「馬体は緩いし、時間かかると思っとったわ~」
師はアキノドカの状態に関して、明らかに見立てを上方修正した。
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