蹄跡の11
その後、アキノドカは2歳一般戦に組み込まれて走ることになった。2歳3組からのスタートだ。そこでも2着に敗れたが力は見せたので2組に。2組でも2戦連続2着になっていた。ここまで、ほぼ2週間ごとのローテーションで出走している。
「そろそろ、重賞が見えてきたなあ~」
「重賞ですか!」
勝ちが無いとは言え、4戦全てで2着と力は示し続けているので、賞金的にも重賞に出られる条件が整っていた。
「周りが強い方がノドカも力を出しやすいだろ~?この間のレースは酷かったからなあ~」
「うっ」
この間とは、アキノドカの前走2歳2組戦での敗戦のことだ。ここでも半馬身差2着に敗れたアキノドカは直線残り200mでいったんは先頭に躍り出ていた。しかし、どんどん失速、差し脚届かずと見られた追い込み馬に差されたのだった。
「いやまあ、抜け出してソラ使い出すのを警戒しろってのはそうだけどな~?ただ、露骨に減速してたんだもんなあ~」
「ですよねえ…何しても聞いてくれてなくて」
ムチ、腹絞め、見せムチ、アクションを強くしてもアキノドカは失速を緩めずに100mで4馬身差を覆されたのだ。
「どうしたらいいんだろう…」
この数か月、ずっと考えている『アキノドカをどうしたらまともに走らせられるか』問題。まだまだ、結論は出ていなかった。
そうこうして迎えた重賞の日。今日は金沢競馬場の2歳重賞『金沢シンデレラカップ』だ。2歳牝馬のレースで、金沢所属馬のみならず全国交流競走なので北はホッカイドウ競馬、南は佐賀競馬から出走可能。今年は南関競馬から1頭、ホッカイドウ競馬から1頭、園田からも1頭とメンバーが揃った。その影響を受け、金沢所属馬は4頭しか出ていない。
「南関の馬はやっぱ良いなあ」
南関からは吉田が騎乗するクラウディアが遠征している。新馬は負けたがそこから2連勝して勢いがある。オーナーが大きく育てたいと言うので賞金額が低めな金沢でも遠征させようとなったらしい。
「あっちの門別も、良いじー!」
ホッカイドウ競馬がある門別の馬はデイジーデイジー。門別で既に8戦のキャリアを経て、重賞でも2着がある。
「あっちは園田の馬…?」
園田馬の騎手がカンナをじっと見ている。馬はセッツナッツヒッツ、騎手は確か、葉月水無。少し年上の女性騎手だったか。
「めっちゃ見てくる…」
何か言いたいことでもあるのだろうか。返し馬中、カンナを眼光鋭く睨みつけていた。彼女は1枠1番、2番のカンナの隣。後で話しかけてみよう。
「色々いるけど…でも、ノドカが一番かわいい!」
そのアキノドカはクラウディアを一心に見つめている。どうも、彼女は見栄えの良い馬に目が行くようだ。それは得てして強い馬であることも多い。マークするのにうってつけというわけだが…。
「そやけど、そやさかいってほれで勝てるわけでねえし」
クラウディアを追いかけるアキノドカの鞍上で、カンナここ数か月の悩みを抱え、今も悩んでいた。
さて、ゲート入りが1号馬から進む。
「ふう」
園田の若手騎手、葉月水無。デビュー年から50勝を挙げた騎手で、4年ほどで既に300勝近くを上げている。地方でも気鋭の若手だ。最近ではハルウララの長女、ナツサヤカの主戦として全国の地方競馬ファンに知られている。
「あの!」
そんな水無に声をかけたのは金沢の新人、霜月神無。ナツサヤカの妹、アキノドカでこのレースに挑んでいる。
「何か?」
「いえ、初めまして…っていうか、ずっと見られてたなって」
「ああ、そうね?私はその子の姉の主戦だから」
「え、そうなんですか!?」
知らなかったのか、と呆れて水無は話を打ち切った。集中したい。
「ノドカ、お隣さんはお姉ちゃんの騎手なんだって!」
そんな水無の胸中は全く知らずにカンナは呑気に馬に語りかけている。その馬の方、アキノドカはお目当ての馬が見えなくなったのでチラチラと隣枠のセッツナッツヒッツの方を見ている。好みではないらしいが。
「ノドカ、私。重賞初めてなの」
カンナは愛馬の首をさすって語りかける。
「すごいよね、お客さんもいっぱい。JBCの時には負けっけど…そやけど、ようけおる。ノドカも嬉しいよね!」
ブルル!とアキノドカが応える。今日は観客が多いので、アキノドカは上機嫌だった。
「私も嬉しい。だから、南関とか門別とか…倒しちゃおう!いいね?」
スターター(発走委員)が台上に上がる。信号が出され、金沢シンデレラカップは発走した。
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