第6話(1)
「ここでまたこうやって、並んで座れるなんて夢みたい。私の夢が、また一つ叶いました」
「俺の夢も、また一つ叶ったよ。この空気、景色、雰囲気。どれも懐かしいね」
あれから、およそ1時間と40数分後。私達は公園にある思い出のベンチで肩と肩を並べ、仲良く前方を眺めていました。
芝生とお花と、小さな太陽のオブジェ。それらはよくあるものなのですが、私達にとっては特別なもの。とても大切なもので、マティアス君と一緒なら、更に更に輝いて映ります。
「見てマティアス君、あそこにドーナツ型の雲が浮かんでるよ。むかし雲のお話をしたの、覚えてるかな?」
「もちろん、覚えているよ。ライオン、キリン、ゾウ、アヒル、チーター、それに鳥。動物そっくりな雲を見た事があるって、伝えたよね」
「うん、そうだね。あのね、マティアス君。そんなお話をしてもらえたおかげで、あの日から私の楽しみが増えたんだよ」
2階にあるトイレを使用する際も、ミンラ様の許可がいったほどの私が――軟禁状態だった私が普段できることは、空を眺めるくらい。
私にも、ライオンやキリンやゾウの雲が見つけられるかな? そうやって空をあちこち探すようになって、空を眺めるのが楽しくなったんですよね。
「そうなんだ、お役に立てて良かったよ。あの頃は無力で、別れ際に何も残せない事が心残りだったからね。支えになれていて嬉しいよ」
「マティアス君。マティアス君と過ごした時間は、他にもたくさん支えになっていたんだよ。特に最後にくれた、『とにかく俺は、必ず戻ってくる。この名前を忘れずに、待っていてくれ』。これはとっても大きくって、生きる理由になっていたんだよ」
頑張っていれば、またあの楽しい時間を過ごせる――。大好きな人が、戻ってきてくれる――。
そういったものの存在は、本当に大きかった。
くじけそうになった時は、何回も救われました。
「『思い返せばイリスと出会ったあの時、俺は人間に戻れた』『感謝しています』とゆうべ言ってくれましたが、私も一晩では伝えきれないくらい一杯もらってるんだよ。ありがとうございます、マティアス君」
隣に向けてペコリと頭を下げて、私は横に置いてあったバスケットを膝に載せました。
この中には、以前から食べてもらいたかった――再会できたら食べてもらいたかったものが、入っています。そろそろ小腹が空く頃ですし、今は一番いいタイミングですので。マティアス君に向けて、パカッと開きました。
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