第11話 罠の始まり エーナ・ファブ(王女)視点(1)
((ふふふふ。ふふふふふっ。もうすぐ、楽しい時間の始まりですわね))
午後7時過ぎ。立食形式を取ったパーティー会場の中で、わたくしは独りほくそ笑む。
各貴族の代表がペコペコしながら挨拶しにきたり、必死にご機嫌を取ってきたり。ここまでも充分に心地の良いひと時でしたが、ここからはもっと面白い事が起きますわ。
((スタートの時は、5分後。建国時刻になった瞬間))
参加者全員でカクテルグラスを掲げ、ワインもしくは葡萄ジュースを一斉に飲む。これが伝統的な、祖国誕生の祝い方。
そこでマティアスのドリンクに媚薬を混ぜ込み、発情させてわたくしを襲わせる。
これがアドリク宰相が考え出した、作戦。わたくしとお父様の目的を叶えられる、妙案ですわ。
(エーナ。お前の準備も、しっかりできているな?)
メインテーブルから離れた場所――マティアスの姿をよく見られる場所であり、なぜかイリス・マーフェルからは死角となる場所。アドリクが指定した会場の隅で待機していたら、大公とのお話を終えたお父様がやって来ました。
お父様はこのあと会場の最前に移動して、音頭を取らなくてはならない。最終確認をしておきたいようですわね。
(ええ、当然ですわ。ちゃんと、ドレスの下に着ていますわよ)
媚薬はかなりの効果があるみたいだけど、念には念を。今夜はいつにも増して煽情的な下着をセレクトしていて、更に欲情させる仕込みは万全ですわ。
(わたくしの抜群のスタイルと媚薬が合わされば、間違いはありませんわ。あの男は確実に、一線を越えますわよ。あっさりと)
(うむ、そうだな。頼んだぞ、エーナ)
(自分に為にも、完遂しますわ。お父様は安心して、持ち場についてくださいまし)
密かに口元を緩め合い、お父様はステージへと移動しました。そしてわたくしは視線をマティアスへと戻し、彼の様子をしっかりと確認する。
乾杯まで残り3分。すでにドリンクの提供が始まっていて、もうそろそろマティアスが受けとる番。ちゃんと、行き渡りますわよね?
「英雄様、イリス・マーフェル様。こちら、祝杯のドリンクでございます」
「ああ、はい。どうもありがとうございます」
「ありがとうございます」
使用人が差し出したトレーに手を伸ばして、無事に成功。彼はアドリク宰相が細工をしたカクテルグラスを手に取った。
そして――
「建国を祝し、乾杯!」
「「「「「かんぱいっ!」」」」」
グラスに口をつけ、一気に飲み干した!
違和感を覚えた様子は、一切なし。作戦その1は、完了ですわ。
(エーナ様、これより英雄様を誘導いたします。例のお部屋でお待ちください)
(よくやってくれましたわ。頼みましたわよ)
すれ違いざまアドリクにウィンクをして、速やかにパーティー会場を後にする。そうしてわたくしは広めのベッドを用意した特別室に一足先に入り、やがてはマティアスがやって来たのでした。
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