第10話

「イリス。ちょっといいかな?」

「うん、いいよ。どうしたの?」


 お店番をした日から、3日後のお昼過ぎ。ダイニングテーブルで明々後日のピクニックのメニューを考えていると、マティアス君が向かいのイスに座りました。

 その日にようやく念の為の現地調査が終わり、立ち入り禁止となっていたエリアが解放となります。『ランドラの森』――お母様と最後に出掛けたあの場所にも、行けるようになります。そのため朝の新聞でそれを知った時から、ずっと考えていたんです。


「邪魔をしちゃってごめんね。さっき、陛下の使者が来ていたよね? その人が、俺と君に宛てた招待状を持ってきたんだよ」

「え? 私にも、招待状? 何が書かれてるんだろ……」


 えっと……。そこには……。



 明日は建国を祝うパーティーが、ヴァンアス城で催される。

 今年は魔王討伐という非常におめでたい年の為、規模を拡大。全貴族を招いて行う事になった。

 お父様の遺言によって当主となっているミンラ様は近々追放されるため、マーフェル家を代表して私に参加して欲しい。

 急な報せで申し訳ない。



 王家の印が捺されてある豪華な招待状には、そんな内容が書かれていました。


「俺も英雄として、今回だけは参加して欲しいそうだよ。もっともそういう要望がなくても、参加以外の選択肢はないけどね」


 これは国事なため、貴族籍を持つ者は断れません。そして会場であるヴァンアス城には、陛下や王女殿下がいらっしゃいます。

 何かしらのトラブルが起きないように、マティアス君は同行してくれるそうです。


「英雄の影響力などを考えたら、君には何もできないとは思うけど――。念には念をだね。傍に居させてもらうよ」

「マティアス君、ありがとう。それじゃあメニュー決めは一旦ストップして、明日の準備をしておかないといけないね」

「俺は、パレードで着たものをそのまま使えばいい。イリスの方は、早速あのドレスの出番だね」


 マティアス君のおかげで、お母様の私物の一部も戻ってきている――かつてお母様が着用したドレスが、この家にはあります。明日はお母様も一緒に、参加ですね。


「初めての親子での参加、楽しみだね。…………だとしたら明日は尚更、何もない一日にしなければならない。これが、罠でなければいいのだけどね」

「? マティアス君? どうかした?」


 少し俯いて、ブツブツ言っています。どうしたのでしょうか?


「ううん、何でもないよ。明日の準備で、俺に手伝える事があったら言ってね」

「うん、ありがとう。私も手伝える事があったら、何でも言ってね?」


 そうして私達はイスから立ち上がって、揃って支度を行います。


 パーティーの準備といえば、今まではミンラ様とアナイスのお世話をする時間でした。


 でも今日は髪型のアドバイスをもらったり、つけるアクセサリーを選んでもらったり。自分のために時間を使うことができて、マティアス君のおかげで幸せな時間となったのでした……っ。

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