第11話 罠の始まり エーナ・ファブ(王女)視点(2)

「大公閣下から大事なお話がある。そう伺ったのですが、なぜ王女殿下がいらっしゃるのですか?」


 扉を開けたマティアスは、わたくしを視認するや不愉快を露わにした。

 ここにいるのは、先日言い合いをした人間。、そういう感情しかありませんわよねぇ。


「マティアス、あれは嘘ですの。貴方をここに呼んだのは、わたくしですのよ」

「………………なるほど。ご用は、なんなのでしょうか? イリスは#鍵付きの個室__安心な場所__#で待ってもらっていますが、出来るだけ早く帰りたいのですよ。可及的速やかにお伝えください」


 ふふふ、憐れな男。わたくし達の狙いは、あの女だと思い込んでますのね。

 そ・れ・は、大間違い。

 わたくし達の狙いは、貴方。貴方の身体、なんですわぁ。


「…………アドリク宰相によると、媚薬はまもなく効いてくる。そろそろ、始めましょうか」

「王女殿下、もっと大きな声で喋っていただけますか? 何を仰っているのか把握できません」

「うふふ、これは独り言ですわ。…………ねえ、マティアス。わたくしを、よく見て頂戴」


 声を使って注目させておいて、ドレスがぱさり。白のドレスが床に落ちると、その下にあるのは黒の下着。布地が非常に少ないランジェリーを纏った、魅力的な肢体を見せつけた。


「すべすべの肌や、柔らかい豊かな胸。この魅惑の果実を、食べてみたくはなぁい?」

「………………………」


 嫌いな相手がこんな姿になっているのに、何も言わない。去ろうとはしない。

 彼はじっと、私の身体を見つめる。


「あらあら。あんなに不愉快そうにしていたのに。わたくしが気になって仕方がないんですのねぇ?」

「………………………」


 引き続き無言なマティアスは、後方を――外の様子を確認したあと、後ろ手で部屋の鍵を閉める。

 その双眸は、まるで肉食獣のよう。すっかり性欲に溢れた目になっていますわ。


「そう、それでいいんですわよ。この獲物は、逃げも隠れもしませんわ」

「………………………」

「さあ、いらっしゃい。本能に従い、この身体をむさぼりなさ――あらまぁ。随分と乱暴ですこと」


 勢いよく両肩を掴まれ、そのままベッドへと押し倒される。

 言わずもがなわたくしは、無抵抗。じっと彼の瞳を見つめていると、彼の顔が近づいてき始めた。


「まずは、唇なのね。どうぞ奪って頂戴」


 妖艶に微笑む間にも、距離は縮まってゆく。そしてついに、マティアスの顔が間近にきて――


(大声を出すなよ? 死にたくなければ、大人しく全てを吐け)


 ――な……。

 彼の顔は目の前で止まり、氷のように冷たく鋭い視線を注がれた……。


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