第12話
「お待たせイリス。ようやく、大公閣下とのお話が終わったよ」
用意してもらった窓のない個室に鍵をかけて、十数分が過ぎた頃でしょうか。事前に伝えられていた8回のノックがあり、開けるとマティアス君が微苦笑を浮かべていました。
「お疲れさま。会場でも皆さんからお声をかけられるし、大変だね」
「そういうイリスも英雄の横にいるせいで注目されていて、大変だった。だけどこういう舞台は、今夜でラスト。お互い最後の思い出、いい思い出という事に変換しておこう」
私は現在マーフェル家の当主なのですが、お父様は再婚したはずなのに表向きはその1年と数か月後、実際には10か月後に生まれた異母妹がいる――お母様の病気が分かった頃から、浮気をしていました。
そのためマーフェル家にはいい思い出がなく、マティアス君の提案で従弟に当主の座を譲りお母様の姓・シャイナを名乗る事に決めています。
ですので私にとっても、こういった場に出るのは今夜が最後となっているのです。
「明日は当主交代の手続きなどを行いに行って、明後日はランドラの森でピクニックをする。面倒なイベントが終われば、楽しいイベントが始まるね」
「そうだね、マティアス君。そうそうっ。ここで待っている時もピクニックを考えていて、ランチのメニューが決まったの。あとでお伝えするから、一緒に作ろうね」
マティアス君に喜んでもらえる組み合わせが、思い付きました。きっと、喜んでもらえると思います。
「それと一品(ひとしな)、マティアス君は内緒で作るものがあるの。そちらも楽しみにしていてね」
「うん、そうさせてもらうよ。じゃあ、会場に戻ろうか――あっ。こっちも、『そうそう』があったんだった」
廊下に出ようとしていたマティアス君は、手を軽くパンと叩きました。
??? なんなのでしょうか?
「恐らくは近々、『とあるちょっとしたこと』は全部片付くと思う。そうすれば結婚についての話もできるし、君が望んでいた場所全てに行けるようになる――お母様のお墓にも、すぐ行けるようになる。あと少しだけ、待っていてね」
魔王ワイズが消滅してからなぜか、この国では無期限で墓地への立ち入りが禁止されています。それは英雄であっても、自分の意思で変えられるものではないと思うのですが……。マティアス君には、自信があるようです。
なので、今後の予定をもう一つ追加。お墓参りを加えました。
「さて、今度こそお話は終わり。戻ろっか、イリス」
「うん、マティアス君。……そういえばさっき外で、王女殿下のお声がしてた。あれ、なんだったのかな?」
「さあ、なんだろうね。『吐いた』とか言っていたような気がするから、何かしらの粗相があったんじゃないかな」
私達はそんな事を話ししながら会場に戻り、その後は適当に食事を摘みながら時間を過ごして、建国パーティーはお開きとなりました。
今夜はマティアス君のおかげで恐怖や不安はなく、落ち着いた時間を過ごせました。
マティアス君、ありがとうございます。
貴方のおかげで生まれて初めて、
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