第4話(1)

「やっと、分かったよ……。『君の為に、世界を救ってきたよ』。あの言葉は、そういう意味だったんだね……っ」


 黙って聞いていた私は大粒の涙をこぼし、お話が終わるとマティアス君に抱き付いてしまいました。

 この人は全部知っていて、私の為に旅立ってくれていた。だから涙が溢れて溢れて、止まりません。


「私の為に、ありがとう……。ありがとう……。ありがとう……っ。私の為に、ごめん、なさい……っ」

「どうしてイリスが謝るんだい? コレは俺がやりたいと感じて、勝手にやった事。その『ありがとう』は受け取るけど、『ごめんなさい』は受け取れないよ」

「でも……っ。でも……っっ。私のせいで、貴方は何年も大変な思いを――」

「それを言うなら、俺のせいで君も大変な思いをしていた。お相子だよ」


 マティアス君は優しく頭を撫でてくれて、「あの時は何十日間も、大事な食事を分けてくれてありがとう」――。そのあと、柔らかな声が、耳に入ってきました。


「それにこの7年間は、絶対に必要なものだったんだよ。むしろ、いけなかったんだ。もあったし、そういう意味でも君には感謝しかないんだよ」


 だから、そんな謝罪は不要――。俺を想ってくれるなら、笑っていて欲しいな――。

 マティアス君は瞳を見つめながら微笑んでくれて、


「俺のお願い。聞いてもらえるかな?」

「はい……っ。うん……っ。マティアス君、ありがとう……っ」


 私は差し出されたハンカチで両目を拭いて、感謝の気持ちだけを込めてもう一度抱き付かせてもらいました。


「イリスも、7年間よく頑張ったね。地獄のような毎日は、もう終わり。これからは真逆の、楽しい毎日が待っているよ」

「マティス君とまた、お喋りできるだけでも嬉しいのに……っ。こんなにも幸せをもらっちゃっても、いいのかな……?」

「君には、その資格があるよ。でもねイリス、これで終わりじゃないんだ。君が得る――君に手にして欲しい幸せは、まだ残っているんだよ」

「そ、そうなの……? なんなの、かな……?」


 考えてみても、分からない。それは、なんなのでしょう……?


「丁度、目的地に着いたみたいだね。その答えは、馬車を降りれば理解できるよ」

「う、うん。ありがとう、マティス君」


 再びエスコートをされて、馬車から降ります。そうしたら――っっ! 目の前には、オレンジ屋根の一軒家が――。


 かつてミンラ様によって売却されてしまった、フィルお母様の生家があったのでした。

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