第3話 7年前の出会いと、気持ちの変化 マティアス視点(7)

 ――おいおい、アホかお前は。魔王を倒すだって? 無理に決まってるだろ――。


 ソレは、あまりにもバカげた内容だったからなのかもしれない。心の声が即座に、俺を嘲り始めた。


 ――戦士ならまだしも、その日暮らしをしていたお前だぞ? できるワケがないだろ――。


 そりゃそうだ。それは当たり前だよな。無茶苦茶を言ってる。


 けどよ。


 そんな事は、関係ない。



 できるできない、じゃない。やるんだよ。



 俺がコイツのためにできることは、これしかない。だから、やる。やらないといけないんだよ。

 こんなにも真っすぐなヤツがあんな目に遭ってるのは、おかしいんだからな!!


「…………い――じゃなかった。そういやお前さ、名前はなんていうんだ?」

「私は、イリスだよ。下の名前は、ごめんなさい。内緒にしないといけないの」

「こっちはそもそも姓なんてないから、気にするな。そうか、イリスっていうのか。俺は、マティアスっていうんだ」


 元々あった名前ライアンは、捨てられた時に捨てた。今は自分でつけたコレが、俺の名前だ。


「マティアス君、男の子くんのお名前はマティアス君っ。ね、男の子くんっ。これから、マティアス君って呼んでもいいかな?」

「ああ、いいぜ。……ただワケアリで、これからこの街を離れる事になったんだ。次にそう呼べるのは――帰ってこれるのは、いつになるか分からない」


 目標が目標で、予想すら立てられない。



 ……お前の気持ちは、分かってるんだ……。

 こんな俺が、お前の支えになっていてさ。そいつがなくなれば、お前が悲しむことも分かってるんだよ……。



 でも。この生活を続けていると、絶対に好転はしない。確実に悪い方向に進んでいっていて、いずれ悲劇が起きちまう。

 だから、悪い。それまで、耐えてくれ。


「……そう、なんだ……。明日からは、会えなくなっちゃうんだね……」

「そうだな。けどよ、俺もこの時間は気に入ってるんだよ。必ずお前の前に戻ってくるから、その名前を憶えておいてくれ」


 長期戦は確定で、その間に色んな部分が変わるだろう。だから、その時はすぐに分かってもらえるように。せめても希望を持っていてもらえるように、名を伝えた。


「きっと、その間にも辛い事があると思うけどよ。そんなものに負けずに、待っていてくれ。その時が来たら、絶対に。お前を、笑顔にするからさ」

「??? 私を、笑顔に……? どういう事……?」

「いや、なんでもねーよ。とにかく俺は、必ずお前の前に戻ってくる。この名前を忘れずに、待っていてくれ」

「…………ん、分かった。忘れずに、待ってるね、元気でいてね、マティアス君っ」

「サンキュ。お前も元気でな、イリス。…………それじゃあ、いってくる」


 そうしてベンチに座っていた俺は立ち上がり、一度だけ暫く彼女を見つめた後、公園をあとにしたのだった。


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