第15話(5)
「っ。マティアス君っ!」
「イリスは、そこで見ていて。その姿勢を保って、ここから出ないようにしていてね」
彼は私の手を引いて切り株の上でしゃがませ、自分は右足を軸として高速で一回転。そうしている間に目にも止まらぬ速さで13本の短剣が投げられ、
「「「「「「「「「「「「「ギィ!?」」」」」」」」」」」」」
その全てが、異形の眉間に直撃。鋭い刃物が急所に深々と突き刺さり、全員がおもわず足を止めてしまいました。
「っっ、お前達止まるなっ! 反撃の機会を生ませては――」
「と言っている時点で、そのチャンスはとっくに生まれている。静止時間が一秒もあれば、充分だ」
そう語るマティアス君はすでに1体の異形の目前にいて、いつの間にか左右の手にあった短剣で突く。彼は、稲妻の如き速さで――全てを確認できないほどの速度で頭部を何度も刺し、崩れ落ちた異形は黒い煙となって消滅しました。
「まずは、1匹。次は、お前を仕留める」
間髪いれず一番近くにいる異形へと視線を移し、地面を蹴りながら左右の手首をクンと2回強く曲げます。そうすると――っ!? 異形に刺さっていた短剣が独りでに抜けて、一瞬空中で停止。そして何かに引っ張られているように再び動き出し、
「「「「「「「「「「「「ギィィ!?」」」」」」」」」」」」
再度短剣達が、異形の#急所__喉__#に突き刺さりました。
「もう一度、足止め。その間に――2匹目も、さよならだ」
左斜め前へと飛んでいたマティアス君は、今度は一閃。痛みで俯きがちになっていたところへ2本の短剣を振り下ろし、そのまま異形の首を斬り落としました。
「「「「「「「「「「「ギィィッ! ギィィィィィッ!!」」」」」」」」」」」
「残念だが、次も俺が攻撃する番だ。お前らは大人しくしていろ」
また手首を動かして、そうするとまた剣が抜けて刺さる。そしてまたその隙にマティアス君は地面を蹴り、滅多斬りにされて3体目がこの世を去りました。
「なっ!? どうなっている!? なんなのだその剣は!? まさか貴様っ、魔術を使っているのか!?」
「人間の俺が、魔の術を使用できるはずがないだろ? これは実に原始的な方法、手製の小型リールとピアノ線を使って操っているだけだ」
みたび短剣で足を止め、4体目を屠ったマティアス君。
その言葉とその動きで、ようやく分かりました。マティアス君の手首と飛ばした短剣は、非常に細い金属製の糸で繋がっていたのです。
「俺は騎士団に所属できず、単独での戦闘が確定だった。そこでずっと大勢対1の戦い方を考えていて、それがコレなんだよ」
自分の手数を増やして翻弄し、その間に1体ずつ仕留めて数を減らしてゆく。それが、マティアス君のスタイルだそうです……っ。
「徹底的に磨き細かな棘を大量につけた得物を使い、糸の#張り__テンション__#と手首のスナップをコントロールすれば、充分なダメージを与えられる。我ながら、いい閃きだったな」
「ば、バカな……ッ。そんな芸当、不可能だ……! 人間如きに――否っ、魔物にだって出来やしない……!!」
「はは、お前は面白い事を言うな。目の前の男が、今まさに実行しているじゃないか」
5体目、6体目、7体目、8体目、9体目、10体目、11体目。次々と異形が倒れていって、ついに残りは1体となりました。
手首の動きで、十数個の短剣を操る。それは荒唐無稽なものですが、可能だと証明されています。
「な……っ。なぁ……っっ。なぜだ……!? なぜこんなバカげた事がっ、人の超越が出来る……!?」
「思い返せばお前は、『人生最後の土産』と口にしていたな。一方的とはいえ、俺達にお土産をくれた礼だ。旅立ちの前に、教えてやろうじゃないか」
マティアス君は悠々と宙を舞い、全短剣が身体に突き刺さって最後の異形は消滅。汗一つかかずに全滅させた彼は、短剣を魔王の分身へと向けたのでした。
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