エピローグ(上)

「お母様、お久しぶりです。今日は3つ、御報告があります」


 この世界から魔物が完全に消滅してから、3日後。宰相の正体などを各国の上層部の方にお伝えするなどして、ようやく落ち着けた日のお昼過ぎ。私とマティアス君は、シャイナ家の墓地――お母様のお墓を訪れていました。

 お母様はマーフェル家の人間ですが、遺言によって生家の墓地に入りました。昔はその理由が分からず『なぜ?』と感じていましたが、今ではそれが一番の幸せだと確信できます。


「1つ目は、改めてのものになります」

「フィル・シャイナ様。こちらで自己を紹介するのは、初めてですね。自分は、マティアス・エローと申します」

「マティアス君は、私の為に世界を救ってくれた人なんです。そのおかげで私は今、幸せに過ごせているんですよ」


 暴力を振るわれる事は、もうありません。早朝の起床と食事の用意を命じられる事も、もうありません。

 起きてご飯を作る際は自分の意思で、私へと伸びてくる手は優しいもの。あの頃とは真逆の日々。

 右手で墓石に触れながら、毎日の暮らしを報告しました。


「次は、2つ目ですね。フィルお母様。今の私は、イリス・シャイナなんです。本日正式に、シャイナ家の人間になりました」


 4日前に書類を用意して、今日の午前中に当主継承など全ての作業が終わりました。

 初めての事ばかりでしたがマティアス君が支えてくれて、驚くくらいスムーズに進んだんですよ。本当に、いつもお世話になっています。


「……私はお父様とお母様の子どもですが、親はお母様と思っていますので。あの人の影がない、お母様の姓を名乗れて幸せです」


 今度は石に刻まれたお母様のお名前を指でなぞりながら、数時間前の出来事を報告しました。


「そして3つ目、最後の御報告になります。…………お母様」


 そこで一度止めて、マティアス君の左手を握ります。そしてもう片方の手を伸ばして、


「今日、婚約リングをいただきました」


 薬指にはまった、ダイヤモンドの指輪をお見せしました。


「私達は、5か月後に――#私が結婚をできる年齢になったら__私の18歳の誕生日__#に、結婚をする事になりました。ですのでその第一歩として、いただいたのですよ」


 この国では結ばれるには、婚約、結婚という流れが必要になります。そのため自由に動けるようになってからマティアス君が選んでくれて、今日はめてもらいました。


「本来は出会ったその日に渡すべきだったのですが、悪い芽を摘んでいて遅くなってしまいました。……フィル様。今はようやくゆっくりと、2人の時間を過ごせるようになりました。これからは今迄以上に、イリスに幸せな人生をもたらすとお約束します。ですのでどうか、ご安心くださいませ」


 墓石の前で目を瞑り、胸に手を当て深く頭を下げてくれたマティアス君。そうして彼の頭が上がって両目が開くと、っっ!


 不思議な出来事が、起きました。

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