エピローグ(下)

『イリス、おめでとう。マティアスさんが隣に居てくれるのなら、安心してここから見守っていられるわ』


 急にフワッと風が吹き、ピーチの香りに乗って懐かしい声が聞こえてきました。

 この少し高めで優しい声音と、甘い良い匂い。これは、お母様のものです……!


「マティアス君っ、いま……っ。今……っっ。お母様の声がしました……!」

「俺もだよ、イリス。『マティアスさん、ありがとうございます。これからもわたくしの大切な娘を、よろしくお願い致します』。優しくて甘いピーチの香りと共に、そんなお声が届いたよ」


 マティアス君は空いている方の手で自分の耳にそっと触れ、その言葉を噛み締めるように伝えてくれました。

 マティアス君、ありがとうございます。そんなにも大切に扱ってもらえて、私は――お母様も絶対に、喜んでいます。


「もうすぐ義母となる方からの信頼を、裏切るわけにはいかない。だからイリス、改めて君にも誓うね」


 両目を瞑っていた、マティアス君。彼は瞼を上げるとゆっくりこちらへと身体の向きを変え、そのあと片膝をついて、私を見上げてくれます。


「これからも貴方の人生を、薔薇色のものにすると約束をします。ですので、今後もよろしくお願いします。俺の隣を、いつまでも一緒に歩いてください」

「はい……っ。こちらこそ、お願いします……っ。ずっと、ずっとずーっと。貴方の隣を歩かせえてくださいね、マティアス君……っ」


 そのお顔と言葉を見て聞いていると、自然と嬉し涙が零れてきて――。それと一緒に抑えられなくなった『大好き』も溢れてきて、マティアス君の胸に飛び込みました。

 そして私達は、


「イリス……。愛してるよ」

「マティアス君……。愛しています」


 全身を纏うように吹く甘い風を感じながら口づけを交わし、お互いを感じ合ったのでした――。







皆様。読んでくださり、ありがとうございます。

このあとは、番外編を投稿させていただきます。

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