番外編その2 私達の、結婚式 イリス視点(2)
「着いたよ、イリス。失礼します」
「ありがとうマティアス君。よろしくお願いします」
ウェディングドレス姿のためマティアス君にお姫様抱っこをしてもらい、馬車から降ります。そうして私達が向かったのは、シャイナ家の墓地。フィルお母様が眠っている場所です。
「…………お母様、見てください。私、これから結婚式を挙げるんですよ」
マティアス君に、くるりと1回回ってもらって。生前にお見せすることができなかった、娘のウェディングドレス姿を見てもらいました。
「このドレスは、マティアス君がデザインしてくれたんですよ。……素敵、ですよね? 大好きな人が作ってくれたものを着て、大好きな人と夫婦になれる。私は今、とっても幸せです」
「お義母様。このタキシードは、イリスがデザインしてくれたんですよ。俺の気持ちも、彼女と同じです。とても幸せです」
それぞれお墓に微笑んで、そのあとは、今度は一緒に微笑んで。言葉と表情で、『幸せです』ってお伝えして。
そうしていたら――。
ふわり。
どこからともなく懐かしい桃の香りがやって来て、それに続いて優しい風が吹きました。そしてその風は、私の――私達の耳をくすぐり、
《見せに来てくれてありがとうね、イリス。そのドレス、とても似合っているわ。おめでとう》
私には、こんな言葉が。
マティアス君には、
《わざわざ足を運んでくださり、ありがとうございます。……マティアスさん、あの日からずっと、約束を守ってくださりありがとうございます。今後も、娘をよろしくお願いします》
こういった言葉が、届きました。
「……お母様……っ。お母様に喜んでもらえて、嬉しいです……っ」
「お義母さん、お任せください。ソレは、俺自身が強く望んでいる事ですので。この日常を、生涯維持しますよ」
大切な大切なメッセージを受け取った私達はそれぞれお返事をして、そうしたら優しい風も桃の匂いも、スゥッと消えました。
これはきっと、お母様の『いってらっしゃい』の合図なのだと思います。ですので私達は墓石に――墓石に刻まれている名前に向かって一緒に頭を下げ、馬車へと戻りました。
「良い時間を過ごせたね。イリス、じゃあ行こうか」
「うん。行きましょう」
次の目的地は、私達にとっての式場。マティアス君と私は頷き合い、お母様に見送られながら、あの場所を目指したのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます