第5話(3)
「はい、なんでもお応えいたします。なんでしょうか?」
「これは、今から7年前の話です。俺は市場にある干し肉を取り扱う店で、イリスと偶然出会っているんですよ」
「「……ぇ。そんなにも、まえから……。あって、いる……?」」
2人の顔が、早々に強張ります。そして、
「イリスは母親からのお使いとして、独りで買い物をしに来ていました。先程イリスへのアレコレは、淑女教育と仰っていましたが――。こちらは、どういった淑女教育なのでしょうか?」
その問いが出た瞬間、2人の表情が完全に一転します。余裕と希望が漂っていた顔は、あっという間に硬直してしまいました。
「毎日毎日雨の日も風の日も、たった独りで何キロも離れた場所へと向かわせる。この行為は、どういった部分に磨きをかけているのですか?」
「そ、それは……。その……」
「教育の一環として行っているのあれば、即答できますよね? どういった部分に、磨きをかけようとしていたのですか?」
「ま、ママっ! どっ、どうしたのっ!? 早くお返事してよっ!」
アナイスは必死に肩を揺すりますが、ミンラ様は何も返す事ができません。なぜならそこに、教育の意図はないのですから。
「ママっ! ママっっ!! ねえっ。ねえっっ! 早くお返事してっ!!」
「…………そ、そこは…………あれ、ですわ。かわいい子には旅をさせろ、ですのっ! 泣く泣く敢えて厳しい状況に置いて、成長を促していたのですわっ!」
「なるほど、泣く泣く成長を促す。となると、『3食残飯だった』。これは、どういった箇所の成長を促していたのですか?」
「「………………」」
それを聞いて、みたび2人の表情が凍りつきます。けれど、恐らくはこの人達にとっては決死の状況だからなのでしょう。必死に頭を働かせて言い訳が見つけたようで、ミンラ様は私、マティアス君の順に視線を移しました。
「英雄様、こちらに関してはこの子の捏造でございます。わたくし達の行動を勘違いしてしまい――いいえ。わたくし達が勘違いさせてしまった事によって、きっと『仕返しをしたい』という気持ちが強くなっていたのでしょう。そこで嘘を上乗せし、貴方様に処してもらおうと考えているのだと思いますわ」
「そっ、そうですママの言う通りですっ! 思えば丁度7年前はお姉様が食欲不振に陥ってる時期っ。お姉様はそういった過去も利用して、マティアス様を懐柔しようとしているのだと思いますっ!」
急いでアナイスも続き、その結果――。2人はこの直後、一切反論できなくなってしまいます。
なぜならば、
「おっといけない。そういえば、言い忘れていた事がありました」
「「い、言い忘れていた、こと……? な、なんでしょうか……?」」
「あの頃の俺は心も体も貧しく、イリスの食事の大半を貰っていました。なのでこの目と口が、真実を覚えているのですよ」
マティアス君の口から、言い逃れできない言葉が出てしまったからです。
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