第5話(4)
「そして、もう一つ言い忘れていました。俺は当時イリスの様子を不審に思い、マーフェル邸まで――貴方がたのお家に、密かに確認をしに行っているのですよ」
「「…………………。…………………」」
「そこで俺は貴方がたの仕打ちを見て、怒声や罵声を聞いています。実は7年前から、真実を知っていたのですよ」
マティアス君はおもわずへたり込んでしまった2人を見下ろし、ミンラ様とアナイスはただただマティアス君を見上げます。
自分達が口にした事が即座に覆されてしまい、おまけにもう絶対に誤魔化せない。そうなるのは当然です。
「その為7年前からお二人に『お礼』をしたくて、やっと実現できる力を手に入れました。なのですでに諜報機関を使って悪事の証拠を集め、いつでも法に則り処せるようになっているのですよ」
「「っっ!! すっ、すみません英雄様っ! 前言を撤回致します!! 先ほどのご説明は全て嘘でした!!」
状況を正確に理解した2人は両膝立ちになり、揃って胸元で手を組みました。
「仰られている通り、イリスに悪事を働きました……っ。自分より優秀な前妻が産んだ子を疎み、様々な事をしてしまいました……っ!」
「わたくしは自分より遥かに優れているお姉様に嫉妬をして、酷い真似を何度もしてしまいました……っ」
「罰が怖くなり、愚かな嘘を吐いて申し訳ございませんでした……っ。娘共々心より反省をしておりまして――」
「コロコロと言い分を変え、被害を最小限で済まそうとする。どこまでも愚かな生き物ですね」
淡々とした声が、ミンラ様の声を遮ります。
「さり気なくイリス達を持ち上げ、機嫌を取ろうとしても無意味ですよ。何をやっても、これまでの罪は消えない。こちらの考えは、変わらない。もう手遅れなんですよ」
「「ぁ、ぁぁ……。ぁぁぁぁぁ……」」
「……ここまで言ってしまったので、処分の内容をお伝えしておきましょうか。ミンラ・マーフェル、アナイス・マーフェル。貴方達は明日の正午にマーフェルの姓を失い、平民となる運命なのですよ」
貴族籍の剥奪。それは貴族にとって最も不名誉な、死よりも辛い罰です。
数多くの特権を失う上に、待っているのは世間からの白眼視。過去に同じ境遇へと落とされた人達は、もれなくどん底まで堕ちてしまっています。
「「えっ、英雄様お考え直しをぉっ!! ご慈悲をくださいませぇっっっっ!!」」
「イリスが『やめて』と頼んでも、止めなかったでしょう? それと、#同じだよ__・・・・__#。お前達はこれからたっぷりと、地獄を味わうといい」
マティアス君は昔のような目つきになって、ですが、ソレは一瞬で終わりもとに戻ります。お顔が私へと向く頃には穏やかなものになっており、そっと手を握ってくれました。
「突如発生した、余計なイベントは済んだ。俺達の大切な場所、公園に行こうか」
「う、うん。……あの、マティアス君。ありがとうございます」
「どういたしまして。それじゃあ馬車へどうぞ」
彼は故意にこの話を短く切り上げ、私はエスコートされて御者席の隣に座ります。そうして右隣りに座ったマティアス君が綱を操り、愕然となる2人を残して私達の馬車は動き出したのでした――。
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