第5話(2)
「誰かと思えば、ミンラ・マーフェル殿とアナイス・マーフェル殿ではありませんか。どうされたのですか?」
すぐにマティス君が私を隠すように立ってくれて、2人を真っすぐ見つめました。
昨日、『目の前に現れるな』と釘を刺されているのに。2人は、どうしてここにいるのでしょう……?
「昨日(さくじつ)のお言葉は、重々承知しております。ですが……その一部に、誤解がございまして……。マティス・エロー様に、そちらのご説明をさせていただきたく思います」
「ふむ、誤解ですか。それは一体、どういったものなのですか?」
「……それは、ですね……。わたくしが
ミンラ様は大きく首を振り、信じられない言葉を口にしました。
あれが……。教育……。
「わたくしとこの子に血の繋がりはありませんが、実の子のように想い接してきました」
「へぇ。実の子のように、ですか」
「……イリスは昔からマナーの覚えなどが悪く、その為仕方なく、少々厳しく当たっていました。その影響でこの子は、わたくし達がイジメを行っていると勘違いしてしまったようでして……。事実とは異なる事を、英雄様にお伝えになられたのだと思います」
「わたしはイリスお姉様の異母妹ですが、敬愛の念を抱いています。ですので、意図的に靴を踏んだのも誤解なんです。あの時はパレードに夢中になり、偶然そうなっただけなのです……」
2人の表情と声音は切実で、事実であるかのように聞こえます。
こんなにも平然と、嘘をつけてしまうなんて。どこまでもおそろしい人達です……。
「なるほど。それ故に、昨日の言葉を――自分達に対する処分を、撤回して欲しい。そう仰るのですね?」
「は、はい……。亡き夫――この子の父親も、こういった祖語は酷く嘆き悲しむと思いますので……。そうして頂きたく、思います……」
「…………そう、でしたか。……現在のお二人の声にも瞳にも、嘘の色は感じませんしね。先日の言は、白紙にしましょう」
「「っっ! 英雄様ありがとうございますっ!!」」
ミンラ様達は顔を見合わせて嬉し涙を零し、その瞬間瞳には狡猾さが宿りました。
恐らく2人は、『完璧な演技で騙せた』と思っているのでしょう。ですがマティアス君は(反省をするどころか、その逆。厚顔無恥な生き物に対しては、持ち上げておいて落とすのも一興だね)と呟き、
「ああ。けれどその前に、いくつか確認しておきたい事があります。……その全てに理路整然とした返事ができたのであれば、白紙にしますよ」
そのあと声のボリュームを戻し、2人に笑いかけたのでした。
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