第15話(3)

「オレは『頭脳』と『保険』が役目故に、大した戦闘能力は持ち合わせていない。故に墓地に眠る亡者の怨念を集め、我が血肉と合わせて眷属を作り出したのだよ」


 左右に味方を集わせた彼は、勝ち誇った顔で喉を鳴らす。

 そう、だったのですね……。魔王消滅直後からの立ち入り禁止は、このため……。


「いくつか策を巡らせ、その隙に仕留めようとしたが――。生憎と駒はゴミでな、この手を使う羽目になったのだよ。楽に死ねないが、そこは許してもらおうか」

「微塵も思っていないくせに、よく言いますね。……なるほど。この身体は、そんな状態になっていたのですね」


 マティアス君は、服の胸部を――心臓がある部分を、強く握り締める。

 倒したと思っていたのに、寄生をされていたんです。そのショックは計り知れません……。


「そうさ、英雄マティアス。貴様はずっと、魔王様の手の平の上に居たのだよ! 衝撃の事実を知った気分はどうだっ?」

「……………………」

「おや? 急に静かになったな? 英雄よ、今の気分を教えてくれ。さあっ、さあ教えてくれたまえ!」

「……………………今の、気分ですか。一言で表すなら、『やっぱりか』、ですね」


 え……!? 無言だったマティアス君は、小さく口元を緩めました。


「くくくっ、かははははっ。ははははははっ! 英雄様は酷く負けず嫌いのようだっ。一体全体、何が『やっぱり』なのだ? 魔王様の仕込みは、一切悟られぬようになっているのだぞ? まさか、にもかかわらず気付いていたとでもいうのかっ?」

「ええ、そうですね。復活の算段がある、そう確信していましたよ。ずっとね」


 マティアス君の表情も声音も、堂々としています。

 これは……。強がりでは、ない……?


「ほう、面白い事を抜かす。ならば、ご教授願おうではないか。察知不可能な魔術を、どうやって感知したというのだ?」

「どうやって。俺がそうできた理由は、魔王ワイズの表情ですね。戦闘終盤――ヤツが自身の負けを悟った時の、顔です」

「顔、だと? ……どういう事だ」

「御存じの通り俺はどん底の生活を送っていて、その影響で『人の死』を何度も何度も目の当たりにしているんですよ。嫌ってくらい、同類の死の瞬間を間近で見てきてるんですよ」

「…………ふむ。それがなんだというのだ?」

「俺に敗れる寸前の――死を悟った時の、魔王の表情。それは、そういう人達とまるで違っていたのですよ。その際のヤツに、恐怖は微塵もない。演技なのか散々叫んでいましたが、ココの奥には絶望の色が全くなかったのですよ」


 彼は自分の右目を指差し、続けます。


「そこが、根拠ですね。だから言わずもがな、こうなる事を予想していて――。こんなものを、用意しているんですよ」


 マティアス君が上着を捲り上げると、その下にあったのは武器。無駄のない筋肉がついた身体にはベルトのようなものが巻かれていて、そこには何本もの短剣が装着されていました。


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