第15話(2)

「魔王ワイズが――偉大なる魔王様がこの世に降臨し時、最初に生み出した魔物。それが、このオレだ」


 オルジー様――オルジーを名乗っていた魔物は禍々しい雰囲気を放ち、誇らしげに自らの肉体を見下ろしました。


「魔物は魔王の魔力で創られていて、魔王が死ぬと消える。そう言われていて、実際にその通りになっています。なのにどうして、貴方が存在しているのですか……!?」

「その理由は、オレの源は魔力にあらず。魔王様が御自ら切り離された、その肉体がもととなっているからだ」


 彼は恍惚の表情を浮かべ、声にもその色を含んで、続けます。


「魔王様は、聡明な御方。2つの理由を以て、特別な性質を――『連動して消滅してしまわない存在』を、創造されたのだよ」

「ふ、ふたつ……?」

「1つ目は、敵対戦力の減少。有力な者が何十何百と集まってしまえば、魔王様とて敗れてしまう。そこでオレを人間界に忍び込ませ、密かに戦力を削いでいたのだよ」


 宰相という地位を使って、騎士団や討伐隊の状況を確認。そうして得た詳しい情報や進行ルートを魔王に送り、あちらは万全の態勢で迎え撃っていた。

 ……ずっと……。そういう事が、行われていたそうです……。


「だがそれでも、今回のようにイレギュラーが発生する場合がある。いくら高い地位を得ていても、そもそも戦士にカウントされていなければ気付かない」

「俺は出自を理由に、騎士団を門前払いされていました。そのおかげで迎撃されず、純粋な力勝負が可能となる。どこで何が福となるか、分かりませんね」


 参加できなかったマティアス君は宰相の死角で腕を磨き続け、単独での戦いを想定した力を手に入れた。悲しい事実が、追い風になっています。


「理由の2つ目は、そこへの対策。もしもの『保険』だ。魔王様は世界の征服前に討たれた場合に備え、復活の儀を行えるよう『連動して消滅しない存在』を創造されたのだ」

「ふっかつ……!? そんな事が――」

「可能、なのだよ」


 ニヤリ。悪意にまみれた笑みを合図に、マティアス君へと黒目が動きます。


「これが英雄でさえも知らぬ、もう一つの秘匿の事実。魔王様は予めご自身に、死により発動する魔術を施しておられた。それによって英雄の心臓には魔王様の魂が封じられており、なんとなぁっ! 魔王様の肉体と接触すれば――詰まる所オレが貴様を殺め取り出した心臓に触れれば、この肉体を媒体として魔王様が復活されるのだよ!!」


 魔物は口角が裂けそうな程に両端を吊り上げ、っ!! それを合図に、彼の左右に13体の真っ黒い人型の異形が現れました……!!

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