第15話(1)
「こ、こんな事は、有り得ません……。どう、なっているのですか……!?」
オルジー様を目の当たりにした私は、立ち上がりつつ後ずさります。
この方は上級貴族であり宰相、国の重要なポジションにいる方です。にもかかわらず帯同者がおらず、独りでこの場にいる。
これは、絶対に起こるはずのない事なのです。
「その雌は、不幸にも巻き添えを食らった存在。いいだろう。人生最後の土産に、全てを教えてやろうじゃないか」
オルジー様は私達から十数メートル程度離れた場所で止まり、私に対して嫌味を含んだ憐れみの視線を注ぎます。
今の宰相閣下は、言葉遣いも雰囲気もまるで違う。この禍々しさは、一体……。
「この話の中には、
「のんびりやっていたら、イリスが長々と不安がる羽目になってしまう。ですので宰相閣下、手短にお願い致します」
マティアス君が遮り、そうしながら私の手を握ってくれました。
こんなにもおかしな状況なのに、マティアス君はいつも通り。その事実と握られた手の温かさが安心感をもたらしてくれて、私の中から恐怖心が消えました。
「……まったく。貴様は、実に無粋な雄だな」
「生まれも育ちもド底辺なもので、お許しください。閣下、短めに、お願いします」
「…………今日はまもなく、『特別な日』となる。いいだろう、特別に折れてやろうではないか」
オルジー様は僅かに口元を緩め、不気味な視線が移動。私ではなく、マティアス君へと注がれました。
「雌よ。その雄は先週、世界の英雄となっただろう?」
「……ええ、そうですね。私は直接見てはいませんが、魔王の首を持って帰還。前人未到の偉業を成し遂げて、全世界の英雄となりました」
討伐の影響によって、各地にいた魔物は全て消滅。世界は平和となり、マティアス君はヒーローになりました。
「魔王と配下の消滅。ああ、そうだな。確かに、そうだ。されど――。それには、一つ誤りがあるのだよ」
「誤り……? それは……。なんなのですか……?」
「この世から魔の者は去った。そこが、大きな大きな誤り。魔の者はまだ1体、残っているのだよ。ここに、な」
オルジー様がほくそ笑む、その刹那でした。彼を黒い煙を覆い、それが消えると……。額に角が生えた、全身がどす黒い異形が立っていました。
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