第6話(2)

「中身は秘密で、気になっていたんだ。イリスが作ってくれたのは、なにかな?」


 バスケットを開けると、興味津々で覗き込んでくれます。被せていた白い布をマティアス君が取ると、そこにあったのは――


「それは……。パウンドケーキ、かな?」

「正解ですっ。内緒で作っていたのは、カボチャのパウンドケーキなんだよ」


 カボチャとクリームチーズを使った、定番の焼き菓子。パンプキンシードを載せてふわっと焼き上げ、仕上げにシュガーパウダーをまぶしたものを用意しました。


「これはね、当時一番美味しそうと思ったお菓子なんだ。いつかマティアス君と、一緒に食べたいなって思ってたの」


 朝ご飯のバリエーションを増やすよう料理本を渡されて、その中に載っていたレシピの一つ。当時は無関係なメニューは作らせてもらえなくて、頭の中で何度も#調理を練習をしていました。


「これも、私の夢の一つです。どうぞ召し上がれ」

「ありがとう、イリス。折角だし、同時に食べよっか」

「うんっ。じゃあ」

「「いただきます」」


 私達は笑い合って、ぱくり。口に含むとクリームチーズとバターとカボチャの風味が広がって、お口の中はあっという間に天国になりました。

 更に、スポンジとパンプキンシードが食感も楽しくしてくれて。おもわず、幸せのため息が漏れます。


「カボチャが濃厚で、でもしつこくない。クリームチーズ達とのバランスも絶妙で、すごく美味しいよ」

「気に入ってもらえてよかった。沢山あるから、よかったらドンドン食べてね」

「お世辞じゃなくて、このパウンドケーキは本当に美味しい。もっと頂くよ」


 まずは私の分を取ってくれて、そのあと自分の分を取る。そうやって私達は思い出話に花を咲かせながら仲良く食べて、やがてうっかりミスが発覚してしまいます。

 包む前に深く考えずにカットしてしまった影響で、残りは1つ。偶数ではなく、奇数個を用意してしまっていました。


「ふふっ。この残り方、今の俺を表しているみたいだね」

「えっ? それって、どういうことかな?」

「それはね……。こういう事だよ」


 残った最後の1つを手に取り、マティアス君は2等分しました。


「今は独占する事のむなしさ、分かち合う事の喜びを知っている。イリス、最後まで一緒に食べよう」

「マティアス君……っ。うん、うん……っ。そうだね……っ。一緒に食べよ……っ」


 私は半分になったパウンドケーキを受け取り、揃って味わいます。

 最後の一切れは、色々なものが詰まった一切れ。だから他のカットよりも美味しくて美味しくて、私達は更に幸せに満ちた一時を過ごせたのでした。


「ご馳走様でした。イリヤ、素敵な物と時間をありがとう」

「私も、楽しい時間だったよ。このあとは、どうしよっか? もうじき夕方になるし、そろそろ帰る?」

「そうだね。そろそろ家に戻って、2人で晩ご飯の準備を――したかったけど、残念。『』の1つ目が、来たみたいだ」


 マティアス君が小さくため息を吐き、右の方向を見ました。なので私もその方向に目を向けると………………………。

 そこにはミンラ様とアナイス以上に、予想外な方がいらっしゃいました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る