第8話(3)

「いらっしゃいませっ。ライズ亭へようこそっ」

「お買い上げ、ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」


 あれから、約1時間後。私とマティアス君は休む暇なく、店内を動き回っていました。

 このお店は人気店であり、今は休日の午後5時――午後の中で、最も市場が活気づく時間となっています。そのため沢山のお客様がいらっしゃられていて、大忙しとなっています。


「お嬢ちゃん。これとこれ、くださいな」

「畏まりましたっ。少々お待ちくださいませっ」


 店長さんの代理をしている、お客様にはそんな事は関係ありません。もしも私が無礼を働いてしまうと、お店の名に傷がついてしまいます。

 ですので、明るい笑顔と大きなハキハキ声で丁寧に。お二人がなさっていたように、私もマティアス君も働きます。


「お待たせいたしましたっ。合計2点で、3400ルピンになりますっ」

「ええと……。じゃあ、4000ルピンでお願いしようしようかねぇ」

「承知致しましたっ。こちら、おつりの600ルピンでございます」

「お嬢ちゃん、どうもありがとうね。留守にしてるハール達に、よろしく伝えてといておくれ」

「必ず、お伝えいたします。本日はありがとうございましたっ」


 常連さんだというおばあ様にお辞儀を行い、それが済むとすぐに次のお客様がレジにこられます。

 こちらの若い男性のお客様は、特製ベーコンと100グラム入りの干し肉のパックをご購入。お次の40代後半に見える女性は、豚と牛の干し肉のパックハーフ&ハーフ。今度の、お年を召した男性のお客様は――


「いつも買ってる、厚切りベーコン100グラムのパックなんだけどさ。在庫はあるかい?」


 ――今は店頭にない商品を、お探しのようです。

 え、ええと……。在庫の確認は……。どこで行えばいいのでしょうか……?


「もしそっちがなければ、燻製ハム100グラムの在庫を確認して欲しい。よろしく頼むよ」


 在庫は……。お店の奥に、あるのでしょうか……?

 は、早く行わないといけないのに、分かりません……っ。焦れば焦るほど頭の中が真っ白になって、パニックになってしまいます……っ。

 どっ、どうすれば――


「少々お待ちください。厚切りベーコン100グラムと燻製ハム100グラム、至急確認をしてまいります」


 ――戸惑ってしまっているとマティアス君が来てくれて、(俺に任せて)とバックヤードに消えていきました。そして彼は僅か2~3分で、厚切りベーコンが入ったパックを持って戻ってきました。


「お客様。ご入用の商品は、こちらで間違いありませんでしょうか?」

「そうそう、これだよこれっ。今日は孫の誕生日でね、あの子はこれが大好物なんだ。どうしてもこいつを欲しかったんだよ」

「そうだったのですね。おめでとうございます」


 爽やかな笑顔で、祝福。そうしてマティアス君は完璧な接客を行い、お客様は上機嫌でお帰りになられました。


(ありがとございます、マティアス君。在庫の場所、よく分かったね)

(こういう少人数で経営しているお店は、ストックの場所が大体決まっているんだ。バイトの経験が役立ってよかったよ。おかげでイリスを助けられた)

(アタフタしちゃって、危なかった。とっても助かりました)

(どういたしまして。バックヤードは意外とごちゃごちゃしていて、そういう作業に慣れていないと探しづらい。そういうご要望があったら、俺に言ってね)

(うんっ。よろしくお願いします)


 マティアス君がそんな配慮をしてくれたおかげで、この後はもうあわあわする事はありません。在庫の問い合わせがあると彼を頼って、自分でできる仕事は心を込めてしっかりと行って。

 マティアス君は勿論のこと私も、それからは閉店時間まで完璧に働けたのでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る