第8話(5)

「もしかして、お二人は……。何年か前にここに居た、10歳くらいの男の子と女の子ではありませんか?」


 店主様が伸ばした指の先にあるのは、干し肉が並ぶコーナー。私達が、初めて出会った場所でした。


「あれは………………確か、7年前だ。そこにいた、男の子と女の子ではありませんか?」

「この人が指してるところで、何か話し込んでいた子供。綺麗な服を着た男の子と、帽子を深くかぶったワンピースの女の子。その二人は、もしやお二人ではありませんか?」

「「え、ええ、その通りです。なぜ、お分かりになったのですか……?」」


 今度は、私達が疑問符を返す番です。急に、どうされたのでしょうか……?


「英雄様達が手を繋がれている姿を見ていたら、ふっと浮かび上がってきたんですよ。あの日の光景が」

「男の子は怖い顔をしていて、女の子は必死な顔をしていて、あたし達も気になっていたんです。それでずっと覚えていたんですよ」


 あの時は、その場で暫く留まっていました。それにどちらも真剣でしたし、印象に残っていたようです。


「そうでしたか、あの子供達がお二人だったのですね。……わたし共に、7年の詳細は分かりませんが――。英雄様とマーフェル様が今、幸せなのだという事は分かります」

「お二人を包む空気はあの時分と違っていて、あたしも旦那も一目で分かりました。英雄様、マーフェル様。末永くお幸せに」

「店長殿、奥様、ありがとうございます。やっと手に入れた、この時間ですから。ずっと維持できるよう、生涯守り続けますよ」

「マティアス君は有言実行をしてくれる人ですので、この時間はずっと続きます。これからも定期的に、揃ってお邪魔しますね」


 彼がそう言ってくれるのなら、それは間違いありません。私達ははにかみ合って、仲良くお辞儀にお辞儀をお返ししました。


「それでは、失礼致します。…………お二人が素晴らしい干し肉達を製造、販売してくださっていなければ、俺達は出会えていませんでした。本当に、ありがとうございます」

「このお店は、私達を結び付けてくれたキューピッドです。ありがとうございます」


 お二人に行った後に、お店に対してもお礼。深く腰を折り曲げた私達は前回と違って同じ場所へと戻り、


「「いただきます」」


 同じ食卓で、同じものを食べます。

 私達はお互いあの日は口にできなかったものをふわふわのパン達と共に味わい、二人で幸せな時間を過ごしたのでした。

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