第1話(1)

「え……? あの……。え……?」


 微笑まれた私は一瞬にして、頭の中がハテナで一杯になってしまいます。

 私の名前はイリス・マーフェルですので、仰る通りイリスです。ですがこのお顔には、見覚えがありません……。


「す、すみません。戸惑ってしまいすみませんっ。マティアス様、は……。私の事を、御存じなのですか……?」

「ああ、そっか。そうだよね。いきなりこう言われても、気付かないよね」


 マティアス様は小さく頷き、「こうやって話すのは、7年ぶり。その間に声変わりもしたし、身長も40センチくらい伸びたしね」と微苦笑を浮かべました。

 7年ぶり。もしかして……っ。


「マティアス様は、あのマティアス君? 干し肉屋さんで出会ってベンチで会っていた、あのマティアス君なのですか……!?」

「正解。俺はあの、マティアスだよ。久し振りだね、イリス」


 彼はイタズラっぽく右目を瞑り、嬉しそうに自分の左手を指差しました。

 そうでした。そうでしたよね、マティアス君。私がその手を掴んで、私達の関係は始まったんでしたよね。


「久し振りだね、マティアス君っ。……貴方が英雄様で、ビックリしてます。あの頃は普通の男の子だったのに、どうやって魔王ワオズを倒したの?」

「それは――それに関しては、あとでゆっくり説明させてもらうよ。どうやらこれ以上は、パレードを中断できそうにないからね」


 マティアス君の後方にはお城の関係者が大勢いらっしゃっていて、ものすごく戻って来て欲しそうにしています。他の参加者さんは「おおっ! 奇跡の再会ってやつかっ!?」「きっとそうだ! こりゃおめでたいっっ!」「英雄様っ、ごゆっくりどうぞ~っ!」と仰ってくださっていますが、仕方がありませんよね。


「こっちには昨日戻って来て、、家も用意してあるんだ。パレードが終わり次第、迎えに行くよ」

「えっ? ゆっくりって――ぁっ、ごめんなさい。ありがとうマティアス君、またね」


 もう一つ気になる言葉があったけど、引き留めてはいけない。私は慌てて口を抑え、手を振りました。


「ああ、またねイリス。広場の入り口で、待っていてね――」

「マティアス様っ! あのっ‼」


 マティアス君が手を振り返しながら踵を返していたら、アナイスが大きく一歩前に出ました。

 この子は、多分……。私を利用して、自分を売り込もうとしています……。


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