第48話 The Channel
「千方、戦は人だけでなく、妖や他の生物の命を奪うだけだぞ。それにこの地をもっと汚す事になる。朝廷の末裔も日ノ本には居るが、彼等はきっとうまく逃げるだろうよ。犠牲になるのは、何も知らん庶民だ。戦で生まれるのは痛みと恨みだけ。人間も、もうよう分かっておる」
「ならぬ、、、、汚れた世にしたのだ。皆同罪だ!」
「千方、我はそちが好きじゃ。そして喧嘩は嫌いじゃ。喧嘩は、勝とうが、負けようが、シコリが残るだけで、お互いに、なーんも良い事がない」
「どうした、千方、友と喧嘩でもしたか?」
「妖を悪く言ったのだ」
「そうか、それで千方は怒ってしまったのか? 千方は誠に妖想いじゃな。だが、その友と千方の面立ちは同じか?」
「え? 違うに決まっておる」
「そうだな。では心の内も違うと思わんか?」
「でも、奴は妖の事を何も分かっておらん」
「では、千方は友を良く分かっておるのか? 何故妖が嫌いか尋ねたか? 友自身や身内が、妖に傷付けられるような、怖い目に合ったかもしれんぞ。人間が、良心を持った者ばかりで無いように、妖にも悪さをするのも居る」
「でも」
「千方の胸の内も、声を荒げずに伝えられたか?」
「言うておらん」
「千方とその者が仲違いをして、この先、辛い目に合うのは妖じゃぞ。人の心は変えられん。だが双方の考えを、混ぜ合わせる事は出来る。負の感情を抱かず、お互いに歩み寄らねばな。千方には、それが出来る勇気がある。大丈夫。我は信じておるぞ」
「
千方は、いつも優しく諭してくれる、
「えええい、何を迷っておるのだ! 時は熟した。今こそ人間共に裁きを!」
妖の罵声に千方は我に返った。そして心の中に、
「ね~
「玄、どういう意味じゃ? ここに居る誰もが、我の法力で地獄に送れるぞ」
「送るってそれって、やっつけたらって話?」
「まぁそうだな。ここに居る妖は、黄泉の国など行きたくないでな」
「そうなんだ」
「何故じゃ?」
「いや~、立ち話も何だし、それに、こんなに沢山の妖が、都心の上空に、浮かんでるのも怖いよね。だから、俺のカフェで、話し合ったらどうかと思って。コーヒーやマフィン食べながらさ」
「玄! それは名案じゃ」
「
「お~丸、聞いてくれ。玄がな、皆を玄のカフェとやらに、招待したいと申しておる。素晴らしい誘いだと思わぬか?」
「なるほど、それは面白い。黄泉の国を見せる良い機会にもなる」
「千方よ、我の身体の持ち主、玄と名乗るのだが、この者が皆を、茶屋に招きたいと申しておる。そこで、茶でもしばかないか?」
「え! 今、小角さん、茶をしばくって言った? そんな言葉何で知ってんの? もう死語だけどね」
「ほほほ、我も長きに渡り、単に祠に鎮座していた訳ではないぞ。若者の願いを聞くのと同時に、新しい日ノ本の言葉も学んだのだ」
「新しくはないけど、、、、」
「他には、チョベリグー ナウイ なども知っておるぞ」
『あははは、俺の身体で、ドヤ顔してるよ』
「ドヤ顔とは何だ?」
「そっか、心の声も聞こえちゃうんだったね」
「何やら、随分と楽しそうだな」
睨み合っている
「おお、
「
「千嘉良? 兄上? 兄上!」
「おお千方、久しゅうの。おや、どうしたその汚れた魂は。何があったのだ」
「兄上!」
隠形がうっかり解けそうになるほどに、千方は兄との再会に歓喜した。
そして兄の元に駆け寄った。
年の離れた兄は、常に千方の憧れであり、尊敬に値する人物であった。
そのため、彼を処刑された時、まだ幼かった千方は、自身から湧き出る憎悪をコントロール出来ず、獄卒を呼び寄せてしまったのだ。
兄の千嘉良は、法術で千方の歩んだ時を読み取った。
「そうであったか、千方。辛い思いをさせてしまい、済まんかった。よく頑張ったな」
千嘉良は、優しく千方の頭を撫ぜた。
「兄上~」
千方は兄の懐に入り込み、子供のように泣きじゃくった。
「千嘉良よ。甦った早々に悪いのだがな、今から地獄に行かんか? 我の身体の持ち主、玄がな地獄で茶屋を、こしらえてくれてな。そこで旨い物を食いながら、話合えば良いと、招待してくれた。どうじゃ。茶をしばこうではないか」
『小角さん、また言ってる。かわいい。意味通じてるし!』
「ほ~ それは是非訪ねてみたいものよ。積る話もあるでな。千方、そなたも来るだろう? 他の妖もどうじゃ? そう、怒らんとも良いではないか。旨い物を御馳走になろうぞ」
千嘉良も妖を守ろうとした人間の1人であり、人間に恨みを持つモノの中には、千嘉良が処刑された事への復讐心から来るモノも多かったのだ。
「千嘉良」
「おお、
『頭が猫の妖って猫鬼って言うんだ』
「ああ、人間に病をもたらすと疑われてな、よう虐められたのだよ。可哀想なやつだ」
「
「では、我の法術で黄泉路を拓き、皆をカフェへと招待するぞ。どうだ」
「おい、
「丸、そちは賢いの~」
「
「お前に法力はないだろうが」
田村麿の言葉を聞いて、大嶽丸は苦笑いをした。
「千嘉良と千方。そち等にも頼めるかな」
「承知した。千方も良いな」
反人間派の妖達の間では、意義を唱えるモノも居たが、千嘉良と千方が説得すると、一時休戦として、皆で地獄カフェへ出向くことになったのだ。
「こんなに沢山のお客さん連れて行ったら、勇達驚くだろうな~ ごめ――ん!」
勇達には申し訳ないと感じながらも、これで平和が訪れる事を強く祈った。
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