第5話 Cultivation

 野菜畑に案内され、先ず目に入ったのが、色とりどりのレタスが沢山栽培されていた。レタスは生で良く食事に出されていた。ここから来てたんだ。他にはネギにほうれん草かな? それにあの大きい緑の作物は、、、、ブロッコリーだ。初めて見た、あんな風に育つんだ。

 それと、ここにも現世に居るようなモンシロチョウが飛んでいた。そう言えば、レタスとかってモンシロチョウは害虫だったはず。

「地獄では殺生をしないんですよね? って事は、害虫も駆除出来ないんですか?」

「害虫? 野菜などを俺様達よりも先に食う奴等か? 今飛んでるあいつ等の事か?」

 そう、耕三が尋ねて来た。

「そうです。現世では、害虫と呼ばれてて駆除されます。苗とか食べられたら野菜が育たないでしょ?」

「人間共は相変わらず身勝手で野蛮だな~」

「儂等は、奴等と共存しておる。殺すなどない」

 耕一はそう言うと、向こう側を指差した。

「あちらにある耕作地は奴らの住処じゃ。そこに十分食うものを別に育てておる。なのでわざわざ儂等の物まで食う必要がないのじゃ」

 共存か~ そうだよ。人間以外は害だなんて勝手だよな。俺達、人間はやっぱ皆地獄行きなはずだわ、、、、とほほ

「だた、時折、ここでも昆虫鬼などが異常に増える事もある。そういう時は、少々力を使って、卵が生まれないように調節する事があるがな。まぁ滅多にない」

 力ってなんだ? そんな便利な力があれば確かに殺生しなくて済むな。昆虫も鬼と呼ばれるんだ。そう思いながら、モンシロチョウの様な虫に近づいてみると、ふと俺の腕に1匹が止った。よく見てみると、

「げげげげ‼ 触覚が無くて角がある。俺の知ってる蝶と違う」

「そうなのか?」

 耕次が不思議そうに聞いてきた。

 蝶の事を話していると、いつの間にか、畑の上に到着していた。

 振り返ってみると、

「うわ――」

 俺の眼界に広大な田園風景が飛び込んだ。 

 まるで測量士が設計したような同じ高さの畝の山に、背筋を伸ばした野菜が生き生きと育ち、それ等を同じ幅の畦道が囲んでいた。

 そこには後光の光を浴びながら清爽とした緑の風が優しく吹いていた。

 高台からの眺めは、あたかも地上絵のようだ。

 俺はその圧倒的な景色に唾をゴクリと飲み込んだ。 

「どうだ、凄いだろ」

耕三が俺に話掛けた。

「もっと自慢してください。素晴らしい景色です」

「だろ」

「ここからだと何が育っているのか分かり易いですね。あの赤いのはトマト、それにあの背の高いのはトウモロコシだ。それと、サトウキビ! あれとフルーツを混ぜたらジャムになります。林檎の種があれば固まるので食べやすいですが、なくても問題ないです。レモンもあった方が長持ちします」

「ここって年中、こんなに暖かいんですか?」

「そうだな。時々寒暖の到来があるが、大体こんな感じだ」

耕一が教えてくれた。

「いいですね。そしたら、トマトとかの夏野菜がいつでも育てられるんだ」

「寒さが必要な果樹は、上の人間界の耕作地で育てておるでな」

 そう言われて、ふと上を見ると、広大な段々畑が頭上に広がっていた。

「絶景だあ~ すごい! 凄過ぎる!」

 何が育っているのかは、ここからは後光が眩し過ぎて分からなったが、林檎や桃が育っているのが想像出来た。

 暫く進むと稲穂畑の前に辿り着き、やはり想像した通り育っているのは米だった。

 日本でお米って寒い所で育っているけど、確かあれって先祖の努力の賜物なんだよな。もともと米って暖かい地域の方が好きなはず。でも味がね~ 文句は言えないが、地獄に居ると日本のお米で炊いたふっくらご飯が無性に食べたくなる時がある。日本米って改良されてブランドになるほど、美味なんだよな。

「おい、お前ら飯食ったか?」

 俺と同じノリの耕三が尋ねてくれた。そう言えばお腹空いたかも……

「いや、まだだ。ここで何か食べようと思っていた」

 そう、監一が応えた。

「じゃあ、休憩するか」

 そう言うと、耕三を始め、他の耕作鬼2人がどこかに向かい歩き出した。その先には、小屋のような簡単な人間サイズの建物があり、煙突から煙が出ていた。

 もしかして、休憩所? でもこのサイズじゃ監一は入れない。そう思っていると、

「茶と食い物を持って来るから、ここで座って待ってろ」

 耕三が告げた。建物の周りには綺麗な芝生が生えていて、座ってみるとピクニック気分だ。

「ここが地獄だなんて、想像出来ないです」

「そうだな。ここは後光と月光によって清められているからな。俺達にとっても居心地がいい」

 監一と会話していると、

「ほら」

 耕一がお茶の湯呑を渡してくれた。人間サイズと鬼サイズの器が1つずつ。結構気が利く鬼だ。ここでもあの生コーヒーをお茶のようにして飲んでるようだ。

「これ、黒くして飲むと、旨いらしぞ。な、お前」

 監一にそう話をふれられた。

「黒くして飲むだと。腹黒い人間が考えそうな事だな」

 耕三が手に沢山の食べ物を持って現れた。

「美味しそう」

 と思ったが、耕三の態度は後光と月光で清められているのだろうか、疑問だ。

「ほら、有難く食え」

「…… はい頂ます」

 耕次も大量の食べ物を持って来てくれた。そう、監一の食べる量が凄まじいと言うと事を始めて知ったのだ。

「これ、オニギリだ」

 俺達が現世で食べるオニギリがあった。塩味だけで具は入っていなかったが、久しぶりに旨い。

「オニギリ、知ってるのか?」

「はい、人間もそう呼びます」

 そう応えて、ふと頭に浮かんだ。

『鬼ぎり』

「え、ええええ! まさか鬼さん達が命名したの?!」

 いやいや、オニギリは、握り飯とも言う。なので違うだろう。でもここ地獄では、もしかすると、『鬼ぎり』と書くのかもしれない。

「鬼ぎり、とても美味しいです。あ、マンゴにイチゴもある」

 フルーツは豊富にあるようだ。スムージーも出来そう。

「で、お前、黒くして飲むと、どんな味だ」

 耕三が話を続けた。

「苦いです」

「苦いだと、そんな物がなんで旨いんだ。こうして茶にする方が、甘くて飲みやすい。まぁでも、苦い物って苦瓜みたいな感じか」

「耕三さん、苦瓜ってゴーヤーですか? キュウリみたいな。そんなのも育ってるんですね? チップスにしたら旨そう。いえいえ、そんな苦さではないです。味だけでなく香りも楽しむんです」

「想像が出来んの~」

 耕一が首を傾げていた。

「この赤い実が育ってるいる所に連れて行って貰えますか? そしたら本当にコーヒーか分かると思うので」

「承知した」

 耕次が興味深そうに答えてくれた。

 もう一度、畑を見渡しながら、

「こんな広い耕作地、3人だけで耕しているのですか?」

「まさか! 他は休憩中だ。俺様達は、お前のために休憩もせずに働いているわけだ。感謝しろ」

 あははは、出た俺様発言とドヤ顔。

「そうだったんですね。わざわざサンキュー じゃなくて有難う」

「三十九? 何だ?」

「構わんよ。儂等も興味があるでな」

 耕一が耕三の肩を軽く叩いた。

「耕一さん、そう言って貰えると気が楽になりました。ここには何人位の耕作鬼さんが働いているのですか?」

「30人ほどじゃな」

「30人も! でも広いし監一さん達の食べる量を見てると大量に食材も必要ですしね。お疲れ様です」

「こいつら、デカ過ぎんだよ」

 耕三が、監一に向って言い放つと、監一が手を頭の上に乗せて申し訳なさそうに蹲った。

 耕三の方が偉いのか?! 

「お腹が一杯になりました。こんなに沢山食べれたのここに来て初めてです。皆さん本当に有難うございます。御馳走様でした」

 手を合わせながらお礼を告げた。

 俺は、おばあちゃん子だった。神棚や仏壇に手を合わす祖母の姿が頭に浮かんだ。

「はぁ~ おばあちゃんにも迷惑掛けてるんだろうな。それに俺が居なくなって大丈夫かな」

 急に不安が過ぎった。こんな事になってしまって本当にごめんなさい。

 そんな俺を監一をはじめ他の鬼達も見ていた。そして耕次が何気に食器を持ち立ち上がるのを見て、

「耕次さん、俺も後片付け手伝います」

 そう告げると、俺は立ち上がった。

 小屋の横に小川が流れていて、そこで湯呑や皿を洗えた。水も少し温かい気がした。現世の台所とは違うが、長年の水の流れにより岩にちょうどシンクの様な窪みが出来ていて、そこに水が溜まっていた。俺の腰の位置にその窪みがあり、蛇口がない以外はまるで現世の台所の様で使いやすい。そう言えば、厨房鬼の居る建物の横にも、でっかいプールの様な物があったが、もしかしたらあれも洗い場だったのかもしれない。

 さて、片付けが終わると直ぐにコーヒー豆の生えている農園に案内してくれた。

 道中、果樹園を抜けた。マンゴやココナッツだけでなく、ドラゴンフルーツやパッションフルーツ、スターフルーツにバナナ等、まさしくトロピカルフルーツの宝庫だ! 

「旨そう」

 さっき、お腹一杯食べたのに、卑しい俺だ…… 修行が足らん! 

 独り言を言っていると、後ろから耕三に黄色い物を差し出された。

「ほら、食え」

「スターフルーツ! 食べていいんですか? 俺、随分前に海外旅行先で食べた切りです。日本ではあまり見かけないし超高級なんで。有難うございます、耕三さん」

 礼を言うと、スターフルーツにがっついた。

「甘酸っぱい! 歯ごたえがあって美味しい」

 食べながら、どんな料理の仕方が出来るか考えた。サラダに入れるとグッドだ。

 スターフルーツを頬張っていると、耕一が、

「ほら、あれだ」

 と前方を指差した。濃い緑の葉を持つ木に赤い実が鈴なりに生っている。

「耕一さん、もしかしてあれは、コーヒーですか?」

 監視下に置かれている事も忘れ、つい走り出してコーヒーの木に向かった。

 初めて見る実物のコーヒー木だ! 思ってたより、背が低い。収穫しやすいようにしてあるのだろうか。そうか耕作鬼が人間とあまり背が変わらないのも、農作業がしやすいようにだ。いくら地獄でも野菜やフルーツのサイズは現世とあまり変わらなかった。監一達のような大きい鬼では作業が大変かもしれない。

 耕次がコーヒーの実を1つ俺にくれた。口に入れてみると甘い。鬼の飲んでいる茶と同じ香りがする。でもこのままよりやっぱ焙煎したコーヒーの方が俺は好きだな。

 コーヒーの後には、カカオの木も見付けた。これも写真などで見ておいて良かった。でもこの固い実からチョコレートってどうやって作るんだろう。ここにはインターネットや図書館がない! 調べられない。凄く残念な気持ちを抱えながら、耕一、耕次、耕三に礼を告げて、耕作地を後にした。

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