第11話 My Dream
「本来なら玄にどうやって食うのか聞いてからの方がいいが、、、、これではの」
「食い方は違うかもしれんが、このままで十分旨いぞ」
「一口味見したら止まらなくなったのだ、仕方ないであろう」
「また作ってもらうしかないな」
「鬼団子の材料がこんなに美味しくなるとは」
「お、厨房鬼、、、そち等の鬼団子が不味いと言ってるわけではないぞ」
「気にするな。俺も勉強になったからな。厨房鬼の10個貰って行くぞ。ジャムもこれだけいいか?」
『なんだこの会話は?』『俺はどうしたんだ?』
誰かの話声が聞こえるが瞼が重く目が開けない。それと身体がだるい。
「監一 玄は起きたか? あ、鬼長いらしてたんですね」
「監二か、玄はまだだ」
「このような人間、地獄で会った事がなかったからな。地獄の業火で灰になってしまった奴は居たが、こんな風になってしまうのは未だかつてない」
「どうしたらいいですかね?」
「そうじゃな、こやつの作る物がこんなに旨いなら、このままでは惜しいの。大王にも確認しておくが、恐らく蘇生する力源を使い果たすと、こうなるのだと考えられる。蘇ると信じるしかないな。ところでお主は監一と呼ばれておるのか」
「すみません、報告しておりませんでした。玄が俺達の事を呼ぶのに名があった方がいいと」
「なるほど。あの方に頂いた名は忘れてしもうたか?」
「そういうわけでは、、、、」
『監一、、、、聞き覚えのある名前だな~ でも誰だっけ?』
『それに、、、、俺どこに居るんだっけ?』
『耳元がくすぐったいな~』
動物に舐められている感覚だ。
「お、コンどうした? 玄が起きそうか?」
『コン? 聞いたことがあるような……』
誰かが近づいてくる。
『それにしても、でっかい足音だな~』
『お袋じゃないな~ おてんば娘の希紅か~?』
「鬼長、監一、玄が気が付いたようでっせ。身体は蘇生したようですが、玄の奴まだ痣だらけですよ、ってパンツ一丁じゃないか、何か掛けてやればいいのに」
「痣? 地獄で蘇生した身体は綺麗になるはずだが」
3鬼が玄の身体を覗き込んだ。
「これは、、、、身体中にあるの」
「地獄で付いたものではないのかもしれんな」
「お、目が明きましたぜ」
俺の視界に3つの赤、青、黒 の大きな顔があった。
『誰だ? それにしてもデカイ顔だな~』
「おい、玄大丈夫か?」
「まだ、こいつボーっとしてるぜ。コン起こしてやれ」
「カーン カーン」
『動物の声? コンって?』
「あ、あああああ 鬼の顔だ! 俺、地獄に落ちたんだった」
朦朧としていた意識がハッキリとしたかと思った途端、言葉にしていた。
「そうだ、鬼だ。気が付いたか」
慌てて身体を起こそうとしたが動かない。
「とことん死んだからな。無理をするな。気が付いて安心したぞ」
「とことん死んだって? 俺、どうして?」
ぶっ飛んでいた記憶を辿った。
「あ、スコーン!」
「旨かったぞ」
「大した出来だ」
『何? もう食べちゃったってこと? 鬼のために作ったからいいんだけど』
「食べ方が分からなかったがの、そのままでも旨かった」
「蜂蜜を入れたので、ジャムとか付けなくても味があったと思う。美味しかったんだ。良かった。全部食べちゃいました?」
「他の鬼に配ってしまったからな……だが、少しだけ残っておるぞ。玄の分もある」
「皆に配ってくれたんだ。ありがとう」
「今回のも好評だぞ」と監二。
「玄が死んでいる間に耕三から連絡があった」
監一が教えてくれた。
「そうなんだ。何だろう? 蜂蜜の採取方法とか知りたかったし、耕三さんが技術者ならどんな道具があるのか尋ねてみたい。ごめんなさい、俺寝たままで」
「構わん、俺も悪かった。死ぬことなく業を続けさせ、しかも窯の業で玄の身体半分以上が燃えてしまっておるのにも気付いてやらなかった。蘇生するために必要な力源を使い果たしてな。危ないところだったのだ」
地獄で危篤状態だったってことか? あははは、笑えない。死んじゃってたらどうなったんだろう? 甦ってよかった~
「ところで、その黒いお方は?」
「お、初めてだったか? 鬼長だ」
「おおおおおおお鬼長!」
寝たままでは、さすがに失礼なので再度、思い切り気合を入れて身体を起こそうとした。途中、倒れそうになったのを監二が助けてくれた。
「ありがとう、監二さん。初めまして、鬼長」
「お主が玄か。スコーンとやら旨かったぞ」
「食べていただけたんですね。喜んでいただけて光栄です」
「何だ、その話方。紳士のようだな」
「がはははは」
3鬼が大笑いした。
玄と愉快な仲間達かよ~
この3鬼以外にも話声が聞こえたので、辺りを見回すと他の鬼達が、岩場などに腰掛けて休憩していた。
「あれ? あの鬼さん達って女性?」
そう、地獄で初めて見る女性の鬼だ。1鬼は、老婆で口が裂け険しい顔を持つ正しく地獄絵巻に描かれている鬼のようである。
「お婆さんの鬼?」
「あ、あの婆さんか?
「三途の川を渡る前の事は覚えておらんかもな。また玄の血縁者が玄に渡し賃を持たせて冥土に送ったなら、奪衣婆に服は取られんかったかもしれん」
「そうなんですね。鬼長」
「ま、儂もよく知らんがな」
奪衣婆って呼ばれてるんだ。あんな怖い形相のお婆さんに何処かで会ってるなら、絶対に思えているはずだ。
その老婆とは対照的な美しい女性達も座っていた。
「あの綺麗な女性も鬼さんなんですか?」
「玄も人間の男よの~ やはり美女鬼に魅了されるか?」
「気を付けないと
がはははって、刀葉林ってどこだよ?
「いやいや、地獄にも女性が居るんだなって」
「奴らは猶予地獄のモノでない」
「なんでここに居るの? まさかスコーンを食べるために来たとか?」
「そうじゃ好評だったぞ。万が一、奴等の地獄に送られても優遇してくれるかもな」
「いや~ それはないだろう。がははは」
「あのね~」
俺の作業場には、いつの間にか女鬼だけでなく、他の鬼達も岩を上手にテーブルセットにして、お茶を飲みながらスコーンやフルーツを食べていた。
「なんだか現生のカフェみたい」
「かふぇ? 休憩所の事か?」
鬼長に尋ねられた。
「コーヒーやスコーンを楽しむ所です。でも無料じゃないですよ。経営者がコーヒーなどを提供して、それらを求めてお客が来るんです」
「なるほど。この場所なら玄の厨房があるし、打って付けじゃな。しかし地獄には銭が存在せん故、金は取れんがの」
「鬼長、、、、この場所を利用するとは、面白い考えですね」
監一と監二が大きく頷いていた。
「自分のカフェを持つのが俺の夢だったんです」
何故かもう随分と遠い記憶のように感じた。
「そうなのか」
監一が俺の気持ちを汲んでくれたかのように寂し気に応じた。
「あ、でもまだコーヒー作れていないし、メニューもジャムとスコーンだけで、おまけに俺またこんな風に死んでしまうかもしれない」
「その内でよい」
「楽しみだな」
「現生と同じでなくていい。玄の味が好きだからな」
鬼達に励まされているようで戸惑った。
「俺のカフェ、、、、いやいや無理。俺みたいな罪人が夢を地獄で叶えようなんて虫がよすぎる」
希望を持つのが怖かった。
しかし3鬼が俺の作った飯の事を口々に話しているのを聞いていると、夢を持つことを、ほんの少しだけ許される気がした。
「地獄カフェかぁ、、、、ネーミングはそのままだろうな」
コンの頭を撫でながら呟いた。
鬼達がそれぞれ持ち場に戻った後、俺の身体も何とか動くようになり、出来上がっていたスコーンを味見した。
「もうすっかり冷めちゃったけど、これにバターがあれば完璧だ。地獄でここまで出来るなんて俺天才かも?!」
「そうか、バターと言うのがあれば更に旨いか」
「バターを作るのにクリームを分離する道具が必要なんだよ。でも蜂蜜があるならもしかしたら、耕三さん達が遠心分離機を持ってるんじゃないかなって」
「あの、グルグルと回すやつか?」
「そうそう、見た事ある?」
「かなり前に1度だけな」
やっぱり蜂蜜は天然の巣からじゃなくて養蜂をしているのだろう。
「耕三からまた連絡があれば直ぐに知らせてやる。その時に色々と尋ねてみればいい」
「うん、そうする。監一さん有難う。耕一さん達もスコーン食べたんだよね? 評判どうだった?」
「さぁ~ 忙しいようでな、転送しただけだ。その内何か言ってくるだろう」
「そっか~ 収穫時期なのかな?」
「米かもしれんな。収穫してから脱穀など時間が掛かる作業だからな」
「トラクタ―があったりして~」
「とら? でかくて動く機械か?」
「そうそう」
「耕三が考えた道具があると聞いたが拝見していない。もう昔のように臼やじんがらは使用していないみたいでな、効率的に作業が行えるようだ。耕作鬼は地獄でも神通力が使えるので奇妙な事を時々しておる」
「神通力? 素敵な響きだ。特殊な能力なんだよね?」
「ああ」
監一と会話をしていると後ろから声がした。
「連れて来たぞ~」
振り返ると、
「あ、監二さん、、、、」
そして監二の背後から1人の男性が現れた。
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