第7話 Huge Drier
次はコーヒーだ。今のうちに中身を出して、乾燥する必要がある。
監一と、味見のために現れた監二と共に、自分の修行場へ戻った。勿論、また空間移動をして。修行場に戻ると服も返って来ていた。
「これ、癖になりそうだわ」
修行場では、何故か人間達が、10人ほど1列に並ばされていた。その最後部に地獄での初日に、俺が見た細身の女の人が居た。
あの時は恐怖のあまり、その女性をしっかりと観察しなかったが、よく見ると結構若い。高校生くらいだろうか? 妹の顔が浮かんだ。
「
「お兄ちゃんの馬鹿野郎! さっさと死ぬな~ 」
耳元で希紅の叫び声が聞こえた気がした。
「相済みません……」
再度、人が並ばされているのを見て、あの列が何かを監一に尋ねた。
「人間界に行くのだろう」
その答えは意外だった。
「人間界?」
「そうだ、ここよりもずっと、上方に存在する世界だ。そしてその後、人間として現世に再び転生する」
そう言えば、ここは猶予地獄だと聞いた。阿鼻地獄など、もっと恐ろしい所に、送られるのもいれば、逆に人間界など、地獄から抜け出す事も可能なのだ。
「簡単に人間界には、行けないがな」
やっぱり甘くはない。希望を持つのは止めよう。
それにしてもあの女の子、良かったな。見た目通り、極悪非道な人じゃ無かったんだ。
他人の事だが、幸せになれる人を見て少しホッとした。
さてと、次はコーヒーだ! 俺様耕三も期待しているようだったしな、、、、ってそう言えば俺って最近死んでない。
地獄での俺の身体は非常(非情とも言える)にタフだ! ジャム作りで、大火傷を負っても今では元通り。ジャムも取れていて綺麗だ。なので風呂に入る必要もない、、、、本音はさっぱりしたいけど。
「監一さん、俺最近死んでないんですけど、地獄で生死を繰り返さないと、修行にならないとか、罪が軽減されないとかってあります?」
「さ~な。分からん」
「えええええ」
どうしよう、このせいで、他の地獄行きとかになったら困るんですけど!
「鬼長か大王に聞いておいてやる」
俺の心の叫びが届いた様だった。
「お願いしますよ。それと今から、コーヒー豆の下準備をしようかと。監一さんに、ずっと付き合って貰ってるんだけど、休憩とかいいの、、、、ですかね?」
こんなに一緒に居ると、敬語が面倒になってきた。もともと俺、言葉遣い悪いほうだしな。
「構わん。玄のやる事に興味があるからな。それに玄が、他の地獄に送られる事になったら、俺がそのやり方を知っておく方がいい」
あらら、縁起悪。他の地獄送りなんか想像もしたくない。
「やり方知りたいなら、ちょっと手伝いますぅ? はははは」
監一は一言も発せず目だけ俺の方に動かした。
「なんてね~ あははは。じゃあ、コーヒー豆の所に行きましょう」
笑ったりしてくれて、少しはお近づきになれたと期待したが、やっぱり『鬼だ~』
コーヒー豆も、別の修行場に移動してあったので、そちらに歩き出した。
「そうだ、コーヒー豆を乾かすのに、機械に入れるか天日干ししないと、駄目なんだけど、、、、何か良い方法知ってます?」
「機械? 窯でもいいのか? 後光でなら干せるか? 地獄の奥にも後光が差す所がある。しかし燃えるような光だが」
「燃えるような光? すげえなそれ」
「厨房に窯があるんですか? 窯見てみたい。コーヒー豆の乾燥には、敵さないかもしれないけど、美味しい物が焼けるかも」
鬼団子を窯で焼いているのだろう。現世のオーブンに似ているなら、カフェには必須だ。
「その熱光って窯より熱い? 燃えるような光って想像出来ないな~」
太陽の光を、虫眼鏡で集めた感じだろうか?
「窯ほど熱くない」
「ますます想像出来ない。とりあえず先に、コーヒー豆を実から取り出さないと」
話をしている内にコーヒー豆の山に辿り着いていた。
俺は早速果実から、種の部分を取り出す作業に取り掛かった。
気が付くと監一も手伝ってくれていた。こういうのは苦痛を伴わないから、手伝いオッケーってことか? それにしてもデカイ手でやり難そうだな。
耕一達は、結構な量を送ってくれたので、この作業が1番手間だ。なので手伝ってくれるのは有難い。
下準備はかなりの時間を要したが、何とか終了した。監一も俺も終わった途端に、ドッと疲れが押し寄せた。考えてみれば耕作地見学からずっと働き詰めだ。
ヘトヘトだが、コーヒー豆の乾燥は早く済ませてしまいたい。通常2週間くらいは掛かるからだ。
「じゃあ、その熱光の所へ案内してくれ、、、、さい?」
「先ほどから随分と面倒な話方をするな。難しい言葉を使わなくともいい」
あははは、バレてたか~ 敬語を使わなくていいなら、その方が楽だ~
「マジで? 俺はその方が楽なんだけど、監一さんにはオッケー?」
指でオッケーサインをした。すると監一も真似て
「構わん」
と言ってくれたのだ。
「サンキュー ほいじゃ出発進行」
一歩踏み出すや、再び監一に腕を掴まれ、瞬く間に目的地に辿り着いていた。
「転移って本当に便利だな」
そうつくづく思う。現世でも使えたら何処へでも、一瞬で行けるのだろうか?
「あれだ」
監一は光の方を指差した。俺は監一が示す方に目線をやると、赤い光が降り注いでいた。
「遠赤外線みたいだな~ 温かそう、、、、ってか確かに熱そうだ」
近づくごとにその熱風が感じられる。
「こりゃ天然ヒーターだな。コーヒーの実が焼けてしまわないなら、これだけの熱風があれば、早く乾燥できるかもしれないな」
そう期待をしながら熱光の下に入ってみた。
「ぎゃ~ こりゃ熱いわ」
でも耐えられない訳ではない。鍋の中に比べると全然ましだ。
「これ使えるかも。コーヒーを広げて置いてみよう」
監一は何も告げず熱光下に入りコーヒー豆を袋からぶちまけた。
「お、サンキュー 広げるだけなら俺だけで出来る」
中腰になりながらコーヒー豆を広げた。
「ちょうど良い温度で風通りも良いし。これならきっと早く乾燥すると思う。時々豆を動かす必要があるから、暫くここに居ることになるよ」
「おおよそ要領は分かった。なら俺は一旦修行場へ戻るとする。後で迎えに来る」
俺が応える間もなく監一は消え去った。
「え、えええええ~ ってもう行っちゃったし! ここでぼっちかよ~」
急に恐怖心が湧いてきた。地獄には鬼と人間以外に何か居るんだろうか?! 耕作地には蝶がいたな~ 修行場にもムカデみたいなのが居たから、虫は存在するみたいだ。他には? 昔に読んだ本を想い起こしたが、5色の鬼の話しか思い出せない。でも怪獣とかいそうだ。
「は~ 俺もう死んでるんだから、食われてもまた蘇るんだよな? でも消化されたらどうなんだ? 俺うんこかよ!」
『うんこかよ~ うんこかよ~』
俺の独り言だけが木霊する。いつもの修行場とは違い、ここは深閑としていて、違う意味で不気味だ。
「やっぱ、おっかないな。修行場での悲鳴が響いているのも怖えけど、こんなに静かなのもどうよ!」
しかし、乾燥作業の合間が暇なので、少し探索してみる事にしよう。
足場は固い土で、運動場のような感じだ。耕作地があるのが、想像できないほどこの辺りは、何も生えていない。
「カサカサ」
突然物音がした。
「え? 何、今の?」
熱光は遠くだが見える。そんなに離れていない。
「カサカサカサ」
やっぱり何かいる。
「おい、誰かいるのか?」
応えが返ってくる方が怖いが、お決まりのセリフを発してみた。すると、カサカサと言う音と共に、
「クーン」と聞こえた。
犬? いやまさか。でも動物の鳴き声のような。
「コーン クーン」
「コンクン? 狐か?」
鳴き声はどうも、前にある岩の近くから、聞こえてくるようだ。恐る恐る近づいてみると、何かが動いた。薄暗くハッキリと分からないが、確かに生きているモノが居るようだ。
「おい、何かいるのか? 俺怪しい者ではないから、襲わないでよ」
刺激しないように、ゆっくりと岩の方に向かうと、岩の前に何か小さい物が見えた。鬼でも人間でもないやはり動物の様だ。すると突然
「グググググ」
と威嚇しているような声に変わった。
「怖くないよ~」
きっとここには、鬼でさえそんなに来ないのだろう。俺は不審者だ。怒って当然だ。興味はあるが、これ以上刺激しない方が得策かもしれない。そう考え近づくのを止め、引き返そうとした。
「でも気になる」
俺こう見えて無類の動物好きなんだよな。暫く突っ立って動物の方を、眺めていると、何となくだが小さな何かの輪郭が見えて来た。
横たわっているようだ。寝てたのかな? 起こしちゃったのか? でも頭を持ち上げて、こっちを見ているシルエット。
「ええええい、やっぱ気になる」
刺激しないように、俺はゆっくりと、その場に座り込んで観察する事にした。
ごつごつした地面に腰を下ろす、、、、尻が痛い。
「お前はどうしてそこに居るんだ? 俺が起こしちゃったのか? だったらごめんな。知らなかったんだ。あの熱光でコーヒー豆っていうのを、乾燥していて、暇だったから、この辺りを探索してみようと思ってさ。君はここに住んでるの? ここも不思議な所だね~ 君以外にも動物とか住んでるのかな? 地獄っておっかないけど興味深くもあるね」
「……」
当然だ。返事がある訳がない。だが、じっとこっちを見ているのは分かる。
「少し近づいてもいい?」
お尻を引き摺りながら、少しだけ小動物に接近してみた。
狐? のようだ。動物園でしか見たことないが、尻尾だろうか、フワリと動いた。
警戒していないのだろうか、逃げ出す様子もない。俺の方が弱いからか?
「あれ? もしかして君、怪我をしているとか?」
動物がこんなにじっとしているのも変だ。
俺等死んだ人間は、治癒力が高いが、ここに住んでいるモノは、そうではないのか? じゃあ鬼達も怪我や病気をするのかな?
「大丈夫?」
そう言って小動物に、触れるくらいの距離まで、近づいてみた。
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