第15話 Drawing
「あ、耕三さん。お久し振りです。忙しかったみたいですね」
「あ~大忙しだ。玄が旨い物を作れるように育苗してるんだ。玄も手伝え」
「いくびょう?」
「そうだ」
俺も勇も心で『???』
「何かの病気?」
「はぁ~ まさか育苗を知らないのか? ちっ、今時の人間はスーパーとやらで全てを手に入れるからな。怠け者になったもんだ」
いくびょうを疑問に思うよりも、耕三の口からスーパーなんて言葉が飛び出した方にビックリした。
「スーパー知ってるの?」
「ああ、俺様は現世と交信可能だ。尚且つ、あちらにも行ける」
「すすすすすげ―― あっそうか耕三さんは神様だからか」
「神様…… どうして地獄に?」
勇が怖々と呟いた。いきなり出現した俺様耕三にビビッているようだ。
「何で知ってる」
そう言うと耕三は監一を睨み付けた。
「余計な話をしている暇はない。育苗は苗を育てるのだ。マンゴなどが大量に要るみたいだからな」
「苗、、、、そっか俺達、沢山消費してるもんね。有難う、、、、ございます。うん、何でも手伝う。教えて貰わないと駄目だけど」
耕三が神様と知って、もっと緊張するかと思ったが何故だろう、耕三には何故か気軽に接してしまう。勇は俺の横でまだビビってるけど。
「で、これは何だ? まさか絵か?」
耕三が急に話を変え、俺の書いた絵を見せた。
「それに木の板と炭ってな。紙とペンくらいあるだろう、監一」
「あ~そうだったか? 俺は使わないからな」
「監一さんにあんな横暴な態度、、、、やっぱり神様なんだ」
勇が縮こまりながら俺の横でポツリ発言していた。
「あははは、勇は耕三さんと会うの初めてだもんね。あ、耕三さん、こいつ勇って言います。俺の助っ人」
「そうか。お前達の作る飯は旨いぞ」
「あ、有難うございます」
ガチガチの勇が応えた。
「で、この絵はどう言う意味だ」
「それ? コーヒーを作る道具」
「は~ これが道具だと? 酷えってもんじゃないな」
「俺、絵を描くの苦手で」
俺は頭の後ろに手を添えると舌を出した。
「苦手のレベルじゃないだろ」
「さっき散々、監一さんと勇に弄られたとこ。だから口で説明するよ」
俺は耕三の登場により、カフェの夢がまた1歩近づいた期待感で興奮が込み上げて来た。
高揚する気持ちを抑えながら、耕三に絵の説明を始めた。
「これは、ドリップコーヒーのつもり」
俺の確かに下手くそなドリップコーヒーの絵を指差した。
「こんな風に上下に分かれていて。上の部分に粉に挽いたコーヒー豆を入れて、上から湯を注ぐと、下のこの部分が出来上がったコーヒーを受けるんだ。現世なら上の部分に紙とかで作ったフィルターを入れて、コーヒーの粉が下に落ちないうようにするんだけど、紙じゃなくて布でもいい。最近は陶器とか金属製もあるよ。笊とかあるならそれでもいいと思う。網目の大きさにもよるし、コーヒー渋で色も付いちゃうけど」
肩を並べ一生懸命説明する俺に、耕三が口元を緩ませ優しい視線を向けていることに気が付いていたのは、この時はまだ監一とコンだけであった。
「この道具は楽勝だな」
「え? マジで。俺達が扱える大きさだと鬼さん達の消費量に対して、何度も作らないといけないし、かと言って修行場にあるような大きさだと大変なんだよね。どう思う?」
「そうだな、この下の部分から、ろ過されたコーヒーが各々の器に注げればいいのだろう。修行場のサイズでも簡単だろうが。下の部分に注ぎ口を付ければいいだけだ」
「本当だ。それでいいんだよ。じゃあ、そうしてくれると助かる」
「もう1つもコーヒーの道具か?」
「そうそう、次のは蒸気圧を使うんだ。このタンクの水を熱したら、蒸気が発生して内部の気圧が高くなって、蒸気圧に押し出されたお湯が、この部分のフィルターに入れたコーヒーの粉を通って下に落ちる。でもこの機械だと、さっきのドロップ式と違って1度に何杯も作れないけど、濃いコーヒーが出来る。それと牛乳をこんな風に、別に取り付けた管から放出する蒸気圧で、泡立てる事も出来て、同じコーヒーでも違う飲み方が楽しめるんだ。俺、地獄にある蒸気道の修行場を使って出来ないかなって考えてるだけど、道具が鉄だけだと錆びるし、現世のエスプレッソマシーンって大体ステンレス製なんだよね。地獄では難しい?」
「なるほどな」
「耕三さん、現世に行けるならコーヒー飲んだことない? 黒い飲み物。牛乳入れると茶色いかな」
「ないな」
「はい!」
勇が急に手を挙げた。
「はい、勇君」
俺が発言の許可を与えた。
「あの~ 耕三さん現世に行けるなら、エスプレッソマシーンを向こうで買って来て貰ったらいいのではないでしょうか?」
「あ、本当だ。でも電力がいるよ」
「そうだった。電気無いか? でも電力源が沢山ここにはあるんじゃない。火力発電なんて簡単そうだけど」
「おい、人間ども。電気はもう流れてる。馬鹿にすんな」
「え~ 上の世界では電気があるの? テレビとか見てるのかな? いいなぁ」
勇は上の世界を想像しているようだ。
「やっぱり火力? それとも耕三さんの神業?」
監一が話していた神通力を思い出した。
耕三は再度、監一を一瞥すると、
「ゴホン 俺様は現世に遊びに行ってるんじゃない! それに現生での買い物は、必要不可欠な物だけだ。天界からの注文ならともかく、地獄のお前らの頼みだぞ。そんな勝手な買い物が、出来るかーーーーーー馬鹿野郎どもめが!」
俺と勇は怒鳴り声から噴き出る風に飛ばされそうになった。
それを監一とコンは笑いながら見ていた。
俺と勇は正座をして耕三の前に座っていた。俺等なりの反省中である。
「全く人間は相変わらず楽な事ばかり考えるな。まぁいい、玄、俺様はここの蒸気を使うアイデアには賛成だ。難しいがな、挑戦してみるか?」
「耕三さま~♡」
「ステンレスは、とっくにあるぞ。合金鋼の事だろ? 鉄にクロムを混ぜるやつだな?」
「????」
俺と勇は黙り込んだ。耕三はエンジニアでサイエンティストに間違いない。
「どうなんだ? 玄の言った通り、鉄だけだと錆びるからな」
凄すぎて言葉にならず、正座をしたままポカン口で、耕三を見上げた。
また監一達に笑われた。
「蒸気道とそのステンレス製タンクを繋げ、そのタンクに絵の様な湯が出る管を、幾つか取付ければいいはずだ。考えてやってもいいぜ、面白そうだからな。だが少し時間が要る。そのコーヒーは、もう仕上がってるのか?」
「いやまだ1週間は掛かる。乾燥は終わったんだけど、暫く寝かせる必要があるから、今耕作地にあるよ」
「そうか、で、コーヒー豆は石臼で挽くな。実はミルもロールもあるが、玄は身体を酷使する必要があるからな」
「ミルあるの! そんな文明もあるんだ!」
「バカにするな。ここの連中の食べる量を知ってるだろ。手作業であんな大量の粉が一遍に出来るか」
監一が恐縮していた。
「それから、蜂蜜に使う遠心分離機をどうすんだ?」
「クリームがあるって聞いたから、バターを作ろうと思って」
「なるほど、じゃあ1台でいいか? 厨房鬼が使ってるのは大きいが大量に出来る、石臼も厨房で使ってるのを転送させる。あ、そうだ」
耕三は何かを思い出したように無言になると、指をパチンと叩いた。すると、俺達が座っている目の前に、食材の入った袋が届いた。
「頼まれた、カカオの実だ」
「耕三さん達って本当に仕事が早いよね。正しく神業」
「この実を何に使う?」
「チョコレートを作りたかったんだけど、勇なんだったっけ?」
「む? 脱脂粉乳のことか? カカオバターか?」
「そうそう、それそれ」
「はい」
また勇が手を挙げた。勝手に発言をしたら駄目だと思っているようだ。
「さっきから面倒だな、早く話せ」
やっぱり、耕三に指摘された。可哀想に初対面から怒られてばかりだ。
「あ、はい。生乳から脂肪分を取り除いた残りはどうしてるんですか?」
「さぁな、乳製品作りは人間界から頼まれて、畜生界辺りの耕作鬼がやっている。俺様は知らん。残りをどうするんだ?」
「カカオの実からチョコレートを作るのに、脱脂乳を粉状に乾燥させた脱脂粉乳が必要なんです」
「耕三さん、液体を乾燥させる何か良い方法ある?」
「そんなの簡単だろう、最上天界に転送してフリーズドライにすればいいだけだ」
俺と勇はギャルのように手を組み顔を合わせると同時に
「フリーズドライ!」
俺達の雄叫びが地獄に木霊した。
耕三は、両耳を指で塞ぐと、
「喧しい!」
と怒鳴った。
「ヤバい、俺、耕三さんに惚れちまいそうだ」
ポツリと勇が爆弾発言をした。さっきまで、あんなにビビッていたのにだ。勇ってもしかしてM?
確かに耕三には、周りを魅了するカリスマ性があった。耕三の横柄な態度は、まかり間違えれば、嫌われても仕方がない。しかし、耕三にはそれを感じさせない、内に秘めた輝く物を持っているようで、吸い寄せられてしまうのだ。
「カカオの実を磨り潰した時に脂肪分が浮いてくるんだけど、その脂肪分だけを取れない?」
「分離した脂肪分が落ちるよう石臼を改良してやる」
俺達は、拝みのポーズをして耕三を敬った。
「耕三さん、まじやばい!」
俺と勇は同時に告った。
耕三は、両手を肩まで挙げると、外国人のお手上げポーズをし、先程から黙って玄達のやり取りを、笑いながら見ていた監一を一瞥した。その時、監一の足元にいたコンの姿が目に入った。
「
耕三が小さく呟いた。
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