第54話 Reunite, Connecting and New Open

 コーヒーの香りが漂う中、数名のスタッフが、開店準備をしていると、この店のオーナーが皆に声を掛けた。

「え~と、開店前に伝えたい事があるので、集まって」


 俺、武田玄信、29歳。ここ【Café 現し世】のオーナーであり【地獄カフェ】も任されている。


「さっき、耕三さんから連絡があって、地獄カフェの営業時間を、少し追加してくれるみたいです」

「玄、それは朗報やな。これで、もっと頻繁に地球の妖さん達も、お茶出来るやん」

 こう話すのは、ここの店長、朝倉義晴、24歳。小学生まで大阪に住んで居たので、未だバリバリの大阪弁だ。

「地獄カフェの入口担当は、今まで通り、義覚さんと監二さんがやってくれるけど、こっちにも間違えて入って来たら案内してあげて」

「はい、分かりました」

 マネージャーの黒坂茜、22歳。専門学校で製菓を学んだ優れ者だ。


「詳しい時間帯は、後で耕三さんが、説明に来てくれるって言ってた。それから、念願の【酒処】がやっとオープン出来たみたいだな」

「おお、やっとやな。皆大喜びちゃう?」

「そう、あっちは、大騒ぎみたいだな」

「ここに来る妖さん達に、まだ~? っていつも聞かれてたから、やっと嬉しい知らせが出来ますね」

「だな~ 茜ちゃん」


 ミ-ティングをしていると、カフェの入り口から、制服姿の高校生が入って来た。

 もう1人の従業員で、バイトの澤元勇。まだ高校生だが、チョコレート作りに詳しく、なかなかの働き者である。

「すみませ―ん。遅くなりました。終業式の後、呼び出されちゃって」

「勇、お疲れ~ 何々、また告られた? 色男は大変だね~」

「そんなんじゃないっすよ」

「地獄カフェの営業時間、追加してくれんねんて。ほんでやっと、【酒処】が完成したらしいで」

「え、まじで! 妖さん等、大喜びだろうな。酒処の店名は、決まってるんすか?」

「え~と【酒処かくりよ】で、これがそこのメニュー」

 俺は、さっき転送されて来た【酒処かくりよ】のメニューを配った。

「おお、すっげ~! ゴマ豆腐にみそ田楽、それにおでん。うぉ~! めっちゃくちゃ旨そう!」

「本当ね~ 先日、耕三さんが持って来てくれた田楽味噌、すっごく美味しかったもんね」

「肉無し料理やけど、結構メニューあるやん。これって、玄も考えたん?」

「まぁな。じゃ、報告は以上。今日も一日お願いします」

「宜しくお願いします」

 従業員3人が声を合わせて応えてくれた。

「勇、さっさと着替えて来い」

「了解」


 そう、俺の経営する【Café 現し世】は、地獄にあるカフェと繋がっており、地球に住む妖達が、黄泉の国で育てられた食材を使ったケーキ等を、食する事が出来るのだ。

 カフェの入口は、人間には俺の【Café 現し世】の扉しか見えないが、妖や見鬼の才がある人間には、別の扉も見え、そこから地獄カフェに入店出来るようになっている。

 ちなみに、俺の従業員3人にも見鬼の才があり、妖好きで、彼等の事を深く理解してくれている。今では凄く貴重な人間だ。

 地獄カフェと連携して営業するうえで、問題だったのが、営業時間なのだ。

 あの世や地獄の1日は100時間であり、ここ地球とはかなりのズレが起こる。

 そして、地獄カフェの営業は、丸1日オープンしていない。鬼の休憩時間に合わせて10時間ずづ1日に2度、地獄時間の20時~30時と70時~80時しか営業していないため、こちらからは毎日案内出来なかったのだ。

 また、最近は噂を聞いた、世界各国に住む妖達が訪れるようになり、商売が繁盛するのは喜ばしい事だが、営業時間内に食事にありつけない妖が、出るようになっていた。

 そのため、対策を、黄泉国側を全般的に任せている耕三に、お願いしていたのだ。


 耕三こと、鬼神の大嶽丸は、並外れた神通力を持ち、サイエンティストで、エンジニア、頼れる相棒である。

 そんな彼の古い友人達が甦ることになったらしく、酒好きの彼等のために、酒処もつくろうと計画を立て、やっと本日オープン出来るようになったのだ。


 実は、俺、1度地獄に送られ、その時に地獄カフェをオープンさせたらしい。

 前世の記憶はあまり残っておらず、ましてや地獄の事など身に覚えがないが、何故か耕三の面影だけは、頭のどこかに残っていた。

 そして、俺が今の世界に生まれた時から、頻繁に会いに来てくれて、色々と教えて貰ったのだ。

 高校に入学した頃に、地球側で地獄や黄泉の国と繋がるカフェを、営業してくれと頼まれ、今に至るわけである。

 また、【Café 現し世 】の従業員3人とも、地獄で会っていたらしく、彼等も【地獄カフェ】オープンの功労者だと聞いた。

 他にもう1人、理子と言う子が、地獄カフェに居たらしいが、鬼と化したらしい。現世では、友人も居らず寂しい人生だったようだが、地獄では他の女鬼と共に、人間虐めを楽しんでいると聞いた(苦笑)


 俺が昔の事を思い出しながら、開店準備をしていると、背後から誰かに声を掛けられた。

「よ! もうすぐ開店か」

「あ、耕三さん。お疲れ~ って、凄い荷物だね。小角さんとこ行ってきたの?」

 耕三の足元には、酒の瓶や、果物、箱入りの和菓子などが置いてあった。

「ああ、お前達にだ」

「耕三さん、お疲れ様です」

 耕三の登場に気が付いた、従業員3人が耕三に挨拶をしながら、近づいて来た。

「おう」

 右手を挙げ耕三が皆に応えた。


 役小角えんのおづぬは、耕三の1000年来の友人で、妖達のために人生を捧げた人らしい。

 今では、仏として各地の霊場で、日本と黄泉国の平和を祈ってくれている。


「わ~ いつも美味しそうな差し入れを、有難うございます」

 耕三は、小角や他の神々への供物の御下がりを、こうして俺達に持って来てくれるのだ。

「玄、これ」

 耕三に、時計の様な物を渡された。

「これって地獄時計?」

「ああ。地球時間とのズレを最小限にするために、何とか地獄の1日を100時間じゃなく、96時間、つまり地球の4日間にしてみた」

「げ! そんな事しちゃっていいの? そりゃその方が、こっちは楽だけど」

「地獄の方は、新しい時間に慣れて来たからな、問題ないだろう。それでだ、こっちと繋げるのが、カフェと酒処どちらも、朝10時~夜の8時。週4日で、恐らく月曜日~木曜日」

「そんなに? それは随分と頑張ったね」

「どちらも、ここのカフェの営業時間と重なる。今までよりも妖が、足を踏み入れると思うが、頼んだぞ」

「了解。全く問題ないよ。でも義覚さんが大変じゃ?」

「入口の管理も人員を増やした。大丈夫だと思う」

「そっか! いよいよだな~。楽しみだね。俺達も生きてる内に、1度くらい行ってみてぇな、黄泉の国」

「そうだな。人界と繋がっている海を、利用出来ないか模索中だ。玄にはもう1度、死ぬ前に見せたいからな」

 そう告げると耕三は、玄の肩を軽く叩いた。


 生きている俺達が、黄泉の国に行けるのは、当然だが死んでからだ。

 冥界に行く事になれば、必ず耕三が、黄泉の国を俺達に案内すると、約束してくれているが、出来れば生きている内に、行き来が出来ないかを、考えて貰っているのだ。

 無理ばかり言う俺を、耕三はいつも嫌な顔一つせずに、前向きに考えてくれるのだ。


「そう言えば、旧友っていつ来るの?」

「今日のはずだ」


 耕三と話をしているうちに、開店時間となり、義晴が看板を出し、オープンのサインを示した。

 すると直ぐに、Tシャツに短パンという軽装の男性2人が入店したのだ。

「おおお、九郎! 権六!」

「え? もしかして、信長さんに勝家さん?」

「おお、丸か! 久しいの」

「丸ではないか。この日を楽しみにしていたぞ」

 九郎と権六は、耕三の元に歩み寄った。

 やはり中身は武士だ。500年振りの再会とはいえ、はしゃぐ様子は無く、気丈としていたが、どちらも満面の笑みを浮かべていた。


「こいつが、玄だ。今回、黄泉と現世を繋げる事が出来たのも、こいつのお蔭だ」

「お初にお目に掛かる。儂は、柴田勝家と申す。今後とも、お見知り置きを」

「余は、織田信長だ。丸も小角も随分と世話になったようだ。礼を申す」

 そう告げると、2人に肩をバンバンと叩かれた。

『あははは、痛い』

 俺の信長と勝家のイメージって、、、、、鎧に身を包み、大きな刀を腰に付けている怖い武将さん。

『Tシャツに短パン、それに髪型も今風、、、、はっははは』


「こちらこそ、お会い出来て光栄です。これからもどうぞ宜しくお願いします」

 俺は、一礼をした。すると、後ろで様子を伺っていた俺の仲間も、同じように頭を下げた。


「随分と軽装だな」

「ああ、地獄は暑いと聞いたでな」

「小角は、一緒ではないのか?」

「先程、山神に黄泉の胡麻豆腐などを食べさせて、機嫌を取ってきた。数日くらい解放して貰えるだろう」

「そうか、小角と酒を呑めるとは、夢のようだ」

「では、行くか。玄、小角と共に千嘉良と言う者も来る。案内を頼んだぞ」

「うん、任せて。九郎さんも権六さんも、地獄と黄泉の国、楽しんで来てくださいね」

「ああ」

 そう告げると、耕三達は、黄泉路に足を踏み入れ、消え去った。


「さてと、今日から忙しくなるぞ! 


【Café 現し世】【地獄カフェ】【酒処かくりよ】 

 

オープンしました!」


「エイエイオー」


 完

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地獄でカフェをOPENしました 美倭古 @fushiru

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