第14話 闇に進みゆく光

議会政治が崩壊し、軍が政治の実権を握るようになってからは各省庁も軍の管理下に置かれている。もし、何らかの理由で軍が機能不全を起こした場合、日本が混乱に陥るのは避けられない事態となる。

そうならないよう、軍人一人ひとりには重い責任が付きまとうのだ。当然、その重圧に耐えられず逃げ出したものもいるくらいだ。

「でも、二年で日本のすべてを掌握するとは手際がいいですよね」

「その件に関してはあまり口外しないように気を付けるんだぞ。誰もが思っていることではあるが、決して口にしてはいけない暗黙のタブーとしてあるんだ」

「それは何となくさっきのやり取りで分かりましたよ。仁科さ……仁科少将。ところで萩原元帥ってあの災害以前から自衛隊にいたんですか?」

その質問に仁科さんは顔を一層、曇らせた。

冷静を装ってはいるが周囲の様子をうかがっているのがよく分かる。

「実はな、それに関してはまったく分からないんだ。自衛隊関係者でもなく、当時の内閣に在籍していた議員でもない。ある日、突然俺たちの上官であり、日本をまとめる指導者になったんだと聞かされただけさ」

俺にしか聞こえない小さな声でそう囁いた。

つまり、得体の知れない何者かが日本のトップにいる。

初めてその事実を知って流石の俺も冷や汗が背中を伝うのを肌で感じる。

「さて、ここが軍の要。ここで今後の政策や作戦がまとめられる場所だ。多くの軍人はここがあるから動くことができる。が」

「そうでもない軍人もいる…ってことだよね」

「その通りだ。ごく一部の限られた者だけは元帥直下の正規軍として動いている。

お前が所属することになる軍だ。無論、こうしてお前の案内をしている私も同じだ。軍の暗部として汚れ仕事や前線に派兵されるのが主な仕事と思っとけ」

「どうして、入ったばかりの俺をそんな場所に?」

その問いに答えは返ってくることはなく、厳しい視線が返ってきただけだった。

どうやら、その意味を問うだけ無駄だったようだ。多分、その理由は俺がここにいる理由と同じなのだろう。

もしかしたら、俺が求めるモノの答えも軍の中にあるのかもしれない。そんな漠然とした思いが俺の中に芽生え始めていた。

「さ、到着したよ。ここが今日から君が働く場所だ」

重い扉が鈍い音を立てて、ゆっくりと開く。

軍の暗部と呼ばれる場所。一体、どんなものが俺を待ち受けているのだろう。

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