第20話 消えた足跡
「ふぅ…」
寮に帰ってきて俺がまず向かった先は風呂だった。
汗を流し、湯船に身体を浮かせぼーっと天井を眺める。
「今日一日で色々あったなぁ。なんだったら、あり過ぎて頭が爆発しそうなくらいだ」
今日、自分の身に起きたことを振り返ればどれも到底、他人には信じてもらえないようなばかりだ。
朝は元帥自ら軍へスカウトしに来て、それからはもう滅茶苦茶だった。正直、まだ頭が追いついてない。
「とりあえず焦らないで、ゆっくりやれることやっていくしかないよな…」
結局、手掛かりも得られずじまい。
残ったのは疲労感と謎だけだった。
「消えた二人。いや、二人だけなのか?
もしかしたら、他にも同じような人間がいる可能性もあり得るんじゃないのか。でも、そんなことを認める訳がない。一体、なぜなのか」
俺は関わるべきではない問題に足を踏み入れている。そのことに自覚はあったが想像よりもヤバイ問題なのかもしれない。
「財津 八郎。彼は今、どこにいるんだ」
頭がぼーっとしてきた。
そろそろ上がろう。
湯船を出て身体を入念に拭きリビングに行くと仁科さんがソファで寝ていた。
「熟睡……してるから起こすのは悪いよね。えっと毛布の代わりになりそうなものはあるかな?」
思えば、仁科さんにはお世話になってばかりだったな。こうして軍人になれたのも彼がいたからこそだ。
「仁科さん、ここまでありがとうございます。
いつか美味しいものでも食べにいきましょうね」
「お前の奢りでなぁ」
「うわぁ?! いつから起きてたんですか!?」
「ついさっき起きたばかりだよ。ふぁぁぁ、よく寝た」
「そ、そうですか」
もしかして、俺が起こしたのかな。
だったら、悪いことしちゃったかも。よく見たら目のクマも凄いし、あんまり休めてないんだろうな。
「仁科さんも寮暮らしなんですね」
「ん? いや、俺はここから近くに住んでるぞ。ここへ来たのは明日の集合時間を伝えに来たんだ」
「あ、なるほど。で、何時に集合なんですか?」
「昼の13時。俺たちの部に集合だ。それまでは自由時間だが遅れないように」
「了解です」
「じゃ、要件も済んだからわたしは帰って寝ることにするよ。亮平くんも早く寝るように、以上」
財津という人物に心当たりがないか聞こうと思ったけど、疲れきった表情を見せられては引き止めるのは失礼というものだ。
焦らずとも明日にでもゆっくり聞けばいいのだから。
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