第21話 偶然は必然である
「ないなー……」
早朝から資料室に籠って財津という人物の記録が無いか調べているがまるでない。
在籍軍人の名簿や当時の新聞記事をまとめた記録にも名前がどこにも見当たらない。あるのは、当時の調書のみか。
「本当に存在していた人なんだろうか……。もしかして架空の人物だったりして」
「誰をお探しなんですかぁ?」
「あ、えっと」
「船原です。船原幸恵と言いますぅ、ここの管理人をしておりますー」
「俺は上村亮平です。どうぞ、よろしくお願いします」
相変わらずのんびりした人だなぁと思う。
でも、ここの管理人ならなにか知っているかもしれない。
「実は財津 八郎という人物に関する記録を探しているんですがなにか心当たりはないでしょうか?」
「財津…ですか。どうしてそのような方をお探しなのでしょうかぁ?」
「それは今の時点では話せません。ただ、どうしても知りたくて」
なんだろ。一瞬、表情が僅かに曇った気がしたような。
彼女はなにか知っているのだろうか。いや、知っていたとしても簡単には話してくれないよな。
「まぁ、いいですけどぉ。ここにくる人たちは皆さん訳ありなのでぇ。今、ある名簿に名前が確認できないのでしたら、軍より前の自衛隊時代の名簿に名前があるかもしれませんけど」
「それを閲覧することは?」
「残念ながら将校の方しか閲覧権限を持っていませぇん。失礼ですが上村さんの階級をお伺いしても?」
「階級は少佐です」
「でしたら、閲覧は残念ながら諦めてください」
「わかりました」
時間は11時を過ぎた辺りか。これ以上、ここで得られるものはないだろう。
少し早いけど集合場所に向かうとしよう。
それにしても自衛隊時代の名簿をなぜ、そんなにも厳重に管理してるんだろ。個人情報だから? いや、それとは違う理由があるようにも思える。
とりあえず、仁科さんに事情を話せば閲覧できるかな。
もう一点、気になるのは財津の名前を出した時の彼女の様子も気がかりだ。
彼女に関しても調べた方が良さそうかも?
「あー! もう考えること多くて頭がパンクしそうだー!!」
「おいおい、廊下で叫ぶなよ。みんなビビってるじゃねえか」
「い、石崎さん。えっと、恥ずかしいところ見られましたね」
「まったくだ。トイレに行った帰りに上官の奇行を見るとはとんだ日だな。で、どうした、なにがわからねえんだ。話してみろよ」
石崎さんならなにか知っているだろうか。
この際だと、藁にも縋る思いですべてを話してみた。財津氏のこと、彼女のこと。
「なるほどな。彼女のことは分からんが、八郎なら少しは知ってる。聞きたいか?」
まさか、こうも早く当たりを引くとは…。偶然とは恐ろしいものだ。
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