第19話 手掛かりはそこになく

 2024年5月11日 震源地不明の同時多発地震が世界中にて発生。

被害者の数は約10万にも及ぶとされている。

その中で唯一の生存者がただ一人。日本在住の上村亮平 当時16歳。

彼の証言によれば『石井拓海』という青年が事件に関与。

同時に『蓼原真希』がその青年とその仲間と思しき集団に拉致されていると証言していたがその後の調査にて両名の戸籍などの記録が無く、事件に伴う記憶混濁ではないかと見ている。

「は……? なんだよこれ。なんで、あいつらの記録が無いんだ」

事件が事件だけに探していた資料はすぐに見つかった。

だが、そこにあったものは自分の想像を遥かに上回るものだった。

拓海若しくは拓海の親族が関わっていたであろう集団が分かれば彼女の場所も分かるはずと考えていたのだが、その考えはいとも容易く崩壊した。

「落ち着け、落ち着くんだ。資料はまだ続きがある。最後まで読めばなにか分かるはずだ」

吐き気すら覚えながらも資料を必死に目で追いかける。が、自分が望むような記述は特になく、被害者の死因や政権崩壊に伴う軍事政権の確立や国際情勢の推移が簡潔に書かれているだけだった。

「これ以上はなにも手掛かりはなさそうだな。えっと、この記述書作成者は………」

あった。小さく『財津 八郎』と書かれていた。

「財津 八郎。彼はこの事件をどこまで知っているんだろうか。直接、会って話がしてみたいけど今、どこにいるのか手掛かりもないし…困ったなぁ」

手掛かりがない。自分でそう言いながらなにか違和感を覚えた気もしたけど、それが何なのかまではまだ分からなかった。

そこからは『財津 八郎』に関する資料を探したけど見つけることは出来なかった。

「あのー、熱心に探されているなか申し訳ないのですがそろそろお時間が遅くなってきましたので一度帰って休まれてはいかがでしょうかー?

あぁぁ!別に24時間空いておりますので無理してお帰りにならなくても大丈夫でございますが!!」

「え、いま何時なんですか?」

「間もなく21時になろうとしておりますです。はいー」

言われて時計を見る。本当だ、もうそんな時間になっていたのか。

名残惜しいけど今日はここら辺で切り上げたほうが良さそうだ。

「ありがとうございます。では、今日はこのへんで失礼します。資料は」

「あぁ、それでしたら私が戻しておきますのでお気になさらずです」

「でも……」

「いいんです。資料室の管理人の仕事はそのくらいなので、むしろ仕事を盗らないでくれって感じです、はいー」

「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」

明日は今日、もう少し財津という人物について調べてみよう。

仁科さんとかならなにか知っているだろうか?

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