第32話 背負い続ける重み

軍が何らかの形で関与しているのは、もはや疑いようのない事実だ。

事実の隠蔽、記録改竄。その行為がされたことは明白だ。

「俺たちの軍がなぜこんなことをしたのか、その理由を明らかにしたいけど真っ向から聞いてもはぐらかされるか消されるかのどちらかだろうな」

「軍の犯罪性を明らかにする方法か…」

果たして、そんなことは可能なのだろうか。

俺の証言も揉み消された以上、立証は難しい気もするけど。

相手が国となれば一筋縄ではいかないのは当然だろう。

「これからの方針はとりあえず決まったな。そろそろ、メインに行くか。

上から厳しいお達しが来ても嫌だからな」

「目撃された人を探せだったか。こんな場所に本当に人がいるのだろうか」

「いると思います。確証はありませんが、そんな気がするんです」

「とりあえず考えるより動こうぜ。何があるか分からんから武装だけは怠るなよ」

そう言って後ろを指差すと銃と防弾チョッキが人数分予め用意されていた。

ほんと、石崎さんの手際の良さには頭が下がるばかりだ

初めて着る防弾チョッキに四苦八苦したが仁科さんと石崎さんに手伝ってもらってようやく着ることができた。

「お、重い…」

「その重さもいずれ慣れる日が来る。ま、慣れなくていいもんだがな。

重さに慣れるってことはそれだけ修羅場を潜ったことを意味する。若いもんがそんなに戦場を経験する必要はないんだよ」

「そうだな。わたしも最近になって慣れてきたが改めて考えるとゾッとするもんだな。二年間でどれだけの戦場を転々としたのか自分でもわからん。

チョッキだけじゃない。銃もスムーズに扱えるようにならないことを願っているよ」

先輩たちからの言葉は一つひとつがあまりにも重く、これまで歩んできたものがどれほどのものであったかを静かに語っていた。

着ているチョッキが肉体的とはまた違った重さで俺に強くのしかかってくるのを肌で実感する。

「さて、準備も出来たようだし。そろそろ出発しよう」

「どこから探します?」

「まずは港方面を当たってみよう。誰かがいるのだとすれば食料が問題になってくるが航空機などの目撃情報がないということは」

「海路を経由して支援を受け取っている可能性がある、ということか。決まりだな」

ここから始まる初任務。

もし、捜索対象が俺と同じで生き残りだったら状況は変化するのだろうか。


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