第33話 止まぬ怨嗟の声

災害の爪痕は俺が思った以上に酷いものだった。

建っている建造物はまるでなく、どれもが瓦礫と化していた。

ところどころ地割れもあり、慎重に進んでいかねば危ない。

「俺の故郷もこんな感じだったのかな」

「ああ。それでも、ここやほかの地域に比べたらまだマシな方だったよ」

「あれでマシな方だったなんて…」

思い出すだけで吐き気を催しそうになるが、それ以上の地獄をここにいた人たちは味わいながら死んでいったのだ。そのことを思うと弱音を言っていられない。

「それにしても本当に酷い有様だな。こんな場所で何日も生活をしていると気が狂いそうだ。こんな地獄を上村少佐は経験したんだろう? 俺には無理だな」

「石崎さんが経験してきた戦場などに比べたら大したことないですよ」

「いや、そんなことはねえよ。戦場は誰もが死を覚悟している。死は常にそこにあると…そんな思いを抱いて生きている。

だが、災害は違う。死はどこにもないのに一方的に死を押し付けられるんだ。それに対する無念、恨み、悲しみがここには充満している。

戦場に充満する思いとは似ているようで大きく違う。これに慣れるってヤツがいるのならそいつは人間じゃねえ」

いつになく饒舌に語る言葉の端々に怒りが滲み出ていた。

当然といえば当然だ。こんな地獄を作った誰かがいる可能性があるのだから。

その犯人への怒りを抱かないとなれば、その人もまた人間じゃないだろうと俺は思う。

「しかし、ここに本当に人がいるのだろうか。まるで人の気配が感じられない」

「上層部の勘違いだった。あり得そうだが。上村少佐を名指しで指名しているということは何かあるはずだ。それも元帥直轄の部下まで引っ張ってきたんだ、信憑性に欠けるものならそこまでするかねえ」

「……上層部はなにかを知っていてわたしたちをここに派遣した」

「あるいは別の狙いがあって部下を同行させようとしたも考えられるぞ」

「別の狙いって?」

「それをこれから考えるんだよ」

別の狙いがあると仮定するとそれは何なのか。

一つだけハッキリしていることは対象は俺ということだろう。

でなければ、あそこまで破格の待遇をしないと思う。

思考を巡らせ、考えていくと一つの答えが見えてきたがそれはあまりにも衝撃的で信じたくないものだった。

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