第34話 受け入れ難きコタエ

ここまでの情報をまとめると当時、地震とは違った事件が起きていた。

事件後、事実を隠蔽するために現政府である軍は隠蔽工作を行った。

事件があった証拠のもみ消し、記録改竄…そしてもう一つ。

「あの、もしかして軍にとって俺の存在は都合が悪いんじゃないでしょうか」

「なんだ、藪から棒に。どうした?」

「考えてみたんです。なぜ、同行させようとしたのかを。その時に、軍が行った事後工作も同時に考えました。その中で大事なものを見落としていたんです」

「大事なもの? なんだそれは」

「何らかの理由で深く関わった人物の処分です」

その言葉に二人は俺と同じ結論に至ったようで顔を強張らせる。

仁科さんはなにかを思い出したようにぶつぶつと呟き、石崎さんはその様子をただ、じっと見つめている。

「確かに当時、同行した隊員で校舎内に入ったものは死亡している他に退職者もいる。結果、残ったのはわたしのように事態をあまり知らないものだけが残っている状態だ」

「それだけじゃねえぞ。当時の報告書をまとめた財津も行方不明のままだ。

なるほど、見えてきたな。つまり、軍にとって生存者は都合が悪い。だから消そうとした…そう言いたいんだな」

「はい。でも、それをぶつけたところで何もなりませんけどね」

「当たり前だ。相手は国なんだ、慎重に行かなくてどうする」

俺を軍に入れたのも監視目的などではなく殺すという目的を果たすために都合がいいからであって、それ以上の理由など無かったのだ。

そのことが俺の胸に深く突き刺さる。別に慕っていたわけでもないのだが、それでも国に刃を向けられるというのはどうしても受け入れ難いものだった。

「少し休むか?」

「いえ、大丈夫です。それよりも港はまだ遠いですか?」

「あと10分ほどで着くとは思う。だが、ここまで歩き続けて疲れもあると思う、

ここら辺で少し休憩にしよう」

「しかし、いまは」

「疲れた身体で戦闘になった場合、どうする」

「それは…わかりました。少し休みましょう」

「よし。そうとなれば俺はもう少し周りを見てこよう」

仁科さんと石崎さんがそれぞれ目配せをしてなにかのやり取りをしたようだが俺には分からなかった。

とりあえず近くにあった手ごろな瓦礫に腰掛けて、地面に目をやると血の痕らしきものが見えた。ここでも誰かが亡くなったのだろうか…。

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