第31話 真実へ歩み寄る

仁科さんと石崎さんは俺に気を遣って少し離れた場所で情報共有をしてくれている。

腕を組んで真剣に聞きながらも、俺の様子を気にかけてくれているようで時折ちらちらと視線がくる。なんだか気恥ずかしい。

と、そんなことを思っている間に話も終わったようだ。

「よ、待たせたな。身体はもう大丈夫そうだな」

「はい、なんとか。ご心配をおかけしました」

「なに、気にするな。辛いことだってのに向き合ってるんだ。それだけでお前はもう少し評価されるべきだと思うぞ」

ゴツゴツとした腕で頭を軽く叩かれる。

優しそうに俺を見る石崎さんの姿はどことなく父さんにも重なって見えた。

父さんもこうして、俺をたまに褒めてくれたっけ。懐かしいな。

「本題に入ろう。この地震はただの地震なのか、まずはそこをハッキリさせたい」

「俺は違うと思うな。見え透いた隠蔽工作と地震とは別の理由で死んだ被害者たち、その事実はもはや疑いようがない。

なぜ、事件性があるのを隠しているのか。

なぜ、上村亮平少佐の証言を黙殺しているのか。まずはそこをハッキリさせたいな」

「事実が公になると都合が悪いからでしょうね」

「そう考えるのが妥当ではあるが矛盾もしている」

矛盾。いったい、この仮説のどこに矛盾があるのだろうか。

腕を組んで色々と考えるがまるで理由が分からない。

「仁科も分からないって顔をしてるな。やれやれ、俺たちは軍人だ。

そして、日本は現在、軍事政権でもある。それが答えだ」

「そうか。諸外国から侵略されていると吹聴すれば、政権の地位を盤石なものにできるはずなのにそれをしていないということか」

「ああ、そうだ。もし、最初から認めていれば反対派だった議員暗殺といったテロ事件も無かったはずだぜ」

一連の事件の影響で財津氏も辞めた可能性があると先日、言っていたのをよく覚えている。

「今回の騒動に軍が何らかの形で関与しているのは間違いないと思うけど、それにしては不自然な点もある。誰が何のために起こしたのか、それが今後の課題だな」

「まだあるぞ。彼が聞いた地響き、それも重要だ。地鳴りではなく地響き。

そして、地震の前に発生した理由も明らかにする必要がある」

課題は明らかになった。でも、それはあまりにも大きすぎる課題だった。

あの日、本当はなにがあったんだ?

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