第30話 別視点からの観測
どれくらい泣いたか分からない。そのくらいには泣いた。
俺はずっと許してほしいと願い続けていた。誰でもいいわけではない。
あの日、死んだ友人や家族…そして蓼原さんに許してほしいのだ。
もちろん、そんなことは不可能なのは分かっている。つまり、そういうことだ。
「落ち着いたかね」
「はい。少しだけですが。ご迷惑をおかけしました」
「気にするな。石崎さんももうすぐこちらに来るそうだ。なにか分かるといいな」
「そうですね。仁科さん、聞きたいことがあるんですがいいですか?」
「ん? わたしに答えれることならなんでも聞いて構わないが、どうした」
さっき思い出したことは俺が体験したものだけじゃない。聞いた内容も少しは思い出せた。それを踏まえて気になる点がいくつかあったのだ。
「初めて会ったとき言ってましたよね。災害で亡くなった方とそうとは思えない方がいるって。他にも自然現象とは思えない事案とも言ってました。
その意味を…仁科さんから見た当時の状況も聞かせてほしいんです」
「よく覚えていたな。言った本人も言われて思い出したほどだよ。
まぁ、話しても構わないが長くなるがいいかね?」
問いに俺は首を縦に振ることで肯定を表す。
「当時の状況はここと同じく酷いものだった。瓦礫の下敷きになったものや二次災害に伴う火災に見舞われたものたち。しかし、気になったのは突然死に似た亡くなり方をしている者もいたことだ。当時の状況から突然の災害にパニック状態を引き起こしたことによるショック死と言われたがわたしはそう思えなくてね。
調べようとしたときに生存者ありの一報。わたしはすぐにそちらへ向かうよう指示を受けた。言わずもがな上村亮平くん、君のことだ。
他の隊員にあとを任せてわたしは君と運命の出会いを果たしたのだよ」
「つまり、仁科さんも当時の状況はよくは知らないんですね」
「ああ。来て真っ先にやったのは瓦礫類の撤去と生存者の安否確認だったからね。その途中で君と合流したので、未だに分からないことだらけなんだよ。
分かっているのは発生と派遣があまりにもスムーズすぎたこと。そして、地震の前兆がないまま発生したことくらいかな。それが自然現象とは思えない事案さ」
前兆がないまま発生していたんだ。
もしかしたら、それと地響きがなにか関係してるのかな。
「おー、いたいた。こっちはあまり収穫無しだったよ。そっちはどうだ」
「こっちはそれなりに」
仁科さんがニヤリとした笑みを浮かべ、帰ってきたばかりの石崎さんを余裕を見せる。
「そうか。じゃあ、ここら辺で情報交換と情報整理の時間にするか」
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