断章 消えない罪と贖罪
すべてを変えた大地震は日本だけでなく世界中で起きていた。このことは後に、『世界再誕の日』と言われるようになるのはまた先の話である。
そう…あの地震がすべてを変えた世界も社会も何もかも、余さずすべてを変えてしまったのだ。
「あの大地震ですべてが変わる様は実に見事だった。
当時のわしはその変わりゆくさまを心躍らせながら見ていたのが懐かしいわ。
なぁ、お前はどうだったんだ。わしと同じで新しい時代の幕開けに胸を弾ませていたのか、それともわしへの憎しみを募らせての日々だったのか。
今となっては確かめるすべはない。お前はもう、この世にいないのだから……」
自嘲気味にボソボソと独り言を話しながら気分転換も兼ね、老人は部屋の中を歩き一枚の写真を手に取る。写っているのは在りし日の自分と友との穏やかな日常。
肩を並べ笑い合う姿に顔も自然と綻ぶ。
「お前は本当にいいやつだった。こんな最低な人間のわしのことを最期まで友と呼び、そばに寄り添ってくれて本当に嬉しかった。
わしに返せるものと言えば、駆け抜けた時代を書としてまとめあげることで正しい歴史を後世に残すことくらいであろう。
もう二度とあのような過ちは繰り返してはならん。あんな思いをするのはわしらで最後にするべきなのだ。
また、いずれ遠からぬ日に《ヤツ》は繰り返そうとするだろう。それは間違いない」
大きく息を吸い込み、椅子の背もたれに深く腰掛ける。
筆を取り、ゆっくり進めていく。丁寧に一文字、一文字紡ぎ出されていく。
そうして、段々と部屋の中の時計が現在から過去へと遡り始める。
荒廃した世界。様変わりしていく真っ只中の時代。
誰もが明日への期待を持てなくなり、毎日、不安とどうしようもない嘆きに支配されたあの暗黒時代。
その時代を生き抜こうとした一人の少年。
ただ一人、そういっても過言ではないであろう。
暗黒時代と立ち向かことを選んだ少年の物語が一人の老人の手で紡がれていくのだ。
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